第235話 火種蟲の天敵
ほんの数時間でイヴァンがだいぶやつれている。
確かに馬酔いも回復しきれてない所もあるし、慣れてない場所で、頭を使わせてしまったからもあるだろう。
事故未遂もあったし。
ネコの助けを借りたときは突っ込みを入れられると思ったが、クアブの娘さんが止めてくれた。良かった。まさかナマコモドキを購入している間にクユーシーがネコをオレの使い魔と紹介してくれたらしい。
「それにしても凄い物を思い付いてくれたな」
見上げる。
水は順調に運ばれていく。
流石に水深が下がりすぎて汲み上げるのが大変だった頃だ。
なんで泉の面積を計算したいのかわからなかったが、先ほどようやくわかった。ナマコモドキも使って水を入れる水槽がどのくらいの大きさが必要なのかというのを計算していらしい。
実際に出来たのは泉よりも小さいものだったが、ナマコモドキも使って、なので、水槽が一杯になったところで、ナマコモドキに溜め込むようにしたらギリギリ足りた。
スゲーな。
風の精霊も楽しそうだし。
そうやって作業を進めていると、店長が到着した。
THE、職人!!連中を引き連れて。
見ると、鍛冶屋、大工、農家、石屋、勢揃い。
何繋がりだ?
「げっ…」
イヴァンが大工に目を向けてビビってた。
なんで?
……あ、そういえば大工の息子とか言ってたな。
「ほー、サンステラ湖のをモデルにしたのか。作りは荒いが、良くできてる。勉強続けてたのか」
「ええ、…まぁ…」
顔を背けるイヴァン。
なにか事情がありそうだけど、まあいいか。
「泉の様子は?」
「だいぶ水が減りました。ようやく底が見えましたよ」
といっても、一面ヘドロしか見えないが。
「よーし、じゃあ俺らの出番だな」
「?」
見てみると、店長・アンドレイが持ってる箱の蓋が開き、半透明のドロリとしたものが。
頭の中に過去、ウロが召喚したスライムみたいな生き物、霊輝を思い出した。
「あのー、なんですか?それ」
オレが指差すとアンドレイがニヤリと笑う。
「俺が改良した、火種蟲の天敵だ」
箱の中にはアメーバ状のスライムが詰まっていた。色は透明のものから灰色のまで様々だが、皆一応に触足を持っていた。
「アンドレイ、まだ駄目か!?」
鍛冶屋の髭を三つ編みにしたおっさんが叫ぶ。
なんだろう。異様に背が低く、手足がゴツい。よく見たら石屋も同じ。これってもしかしてあの種族か?
でもそれにしてはエルトゥフが静かだ。
「トッタ。そろそろだ。用意してくれ」
「あいよ!」
鍛冶屋と石屋、農家が台車を持ってきた。その上に山と積み上げられた箱。
まさかこれ全部さっきの?
「量が多い!手伝ってくれないか?」
エルトゥフ達が箱を持ち泉の縁へとたつ。
中のものが蓋を押し上げようとするのを押さえているが、中身が一部出てくる度にエルトゥフ達が凄い顔をした。
こいつら絶対タコとかダメそう。
「一二の三で中身を落とすぞ、それ!一二の三!!」
合図で箱の中身を落とす。
物凄い量のスライムは下のヘドロに埋まるように着地し、なんと一斉にヘドロを食べ始めた。
器用に触足を使い、ヘドロをかき集めながら食べるスライム。
実はこいつら、元は死体を食べるスライムだったらしい。
それが何故か石油が湧き出す所にやって来て、石油に嵌まり死んでいる動物を食べているうちに石油も一緒に食べれるようになっていっているのをアンドレイが発見。
そして、周りに転がる燃える石が、元はこのスライムだと知るや一気に研究意欲が沸きだし、スライムを捕獲しては石油のみを与え、石油を餌に生きるスライムを育て上げた。
初めは大変だったそうだ。
なにせ一般人がスライムを大量に捕獲したら疑われるから、スライム専門店の店長になり、仲間を集め、研究をし続けていた。
「いつか敵討ちが出来たらと思ってたんだが、夢が叶うとはな」
「ちなみにお仲間さんはどういった理由で、研究をしてたんですか?」
「大工のルーイは好奇心、鍛冶屋のトッタと石屋のチッタは燃える石をたくさん手にはいるようになると誘惑した。農家のチックは、知らん。スライム愛好家とか言ってたな」
泉のヘドロが凄い勢いで減っている。
そして、一匹のスライムが前アウソと潜った穴を見付け、凄い勢いで転がっていった。
「お?」
すると次から次へとスライムが突入。気が付くと半分が穴の中へと消えていった。
穴の中でギーギー悲鳴が聞こえる気がする。
まさか。
火種蟲食べてるのか!?
『ライハー!!』
ネコが駆けてきた。
『クユーシーのところ来て!はやく!』
「? 分かった」
アンドレイに失礼しますと一言残し、オレはクユーシーの元へ急いだ。
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