第233話 イヴァンはみた.7
キリコ嬢は振り子の重りのごとく向こう側に無事辿り着く。
それをさも当たり前のように見ている高ランク
オレはすぐさま近くの従者ライハに掴みかかった。
「お前何レディーに危ないことさせてるんだ!!!普通お前が行く感じだろう!!!」
「うわっ!ちょっ!いや!能力的にキリコさんのが適任だったし!実際立候補してたし!」
ガクガク揺すぶられるも意味が分からないという顔のままのライハ。お前従者の自覚皆無か!?
「お前レディーをーー」
そこに、ポンと肩に置かれた手。
レディー・カリアだった。
「価値観の押し付けは良くないよ。見てごらん、
何をバカなと思ったが、キリコ嬢を見て驚いた。
笑顔が輝いてらっしゃる。
「あと何処?」
「そこから右に十往復です」
「わかったわー!」
そしてキリコ嬢がこちらを向いた。
「ライハ!!はやく準備しなさい!!」
「…すいません、手を離してもらっていいですか?」
渋々手を離すと、急いでライハが駆けていく。
それと同時にキリコ嬢がこちらに向かってやって来る。ブレーキ役か?と思ったが、そうではなく、キリコ嬢は到着した瞬間に縄を離して飛び、ライハがその縄を捕獲。
縄を捕獲する役かい。
「ここに置いておけばいい?」
「ありがとうございます」
と、キリコ嬢は手にもった糸を編んだ細い縄をを地面においた。縄には印がついている。
そしてライハから縄を受けとると、次の所へ。
それを十回繰り返し全ての場所で縄に印を記入し終えると、キリコ嬢が「あー楽しかった」と上機嫌で戻ってきた。
アウソも天井の隙間から縄を回収して戻ってきて、あらかじめ地面に固定していた印を付けた縄を固定していた槍を抜くと、それを持ってきた。
そして縄を釘に巻き付け始めた。
自分達が要るだろう位置の釘から、矢のある所にある釘。それを数えながら巻き付けては回数を数えた。
といっても木の板も50cm程の大きさではあったのでそれほど大変な作業ではなかった。
「イヴァンさん、巻き尺貸してもらってもいいですか?」
「使い方知ってるのか?」
一般人は巻き尺などみたこともないから使い方すら知らない。そもそも使う機会がない。
だから訊いたのだが、何となくこの予想外な従者には使えるんだろうなという気がしていた。
「オレの知っているのと同じなら。…一応やり方は同じかな」
そうして釘までの長さを計り、紙に記入。
そこには長さと回数の数字の間にバツ、一番右側に上下に線が二本引かれていた。そしてまた長方形の板を見ながら指で撫で始めたかと思えば、二本線の横に新たな数字が掛かれる。
「その電卓便利だよな。俺も欲しいさ」
「ははは…」
アウソの言葉に苦笑いのライハ。
デンタクとは?またどこの国の言葉か分からないものが飛び出てきてうんざりしていたが、数字を見て驚いた。こいつ、算術を極めているのか!?
算術はどの人でも気軽に扱えるものではない。
足し引き位ならば、生活に必要な分は覚えるが、今こいつが使っているのは金を出さねば行けない算術の学校で習うものだ。
「………」
イヴァンは、大工になる道を蹴ったが、これでも算術の学校を出た。だからこそわかる。こいつは算盤でもちょっとめんどくさい作業をしなければならない数字も一瞬で解いた。
その事に、イヴァンは目の前にいる従者達を侮れなくなってきていた。
「一応底までの距離はウンディーネに聞いたので、それとわかる範囲の距離は出しておきましたので、凹凸についても短いところと長いところも出しておきました。ここからはオレ達じゃ計算のしかたが分からないので、専門のイヴァンさんお願いでしますか?」
と、紙の束を手渡された。
おい、ここまでやって丸投げか。
ここまで計算したのに、こっから先分からないからって投げるなよ!俺も正直自信なくなっていたところだったのに!
しかし、レディーのいる手前お前がやれよと言えない。
始めあんなに偉そうに詳しい距離が分からないと計算出来ないって言ってしまってるからな。
「はははは、任せろ。さて、君らはしばらく木材と、水が染み出さない布を探しにいったエルトゥフ長老達の手伝いに行ってきてはどうでしょう?」
「そうだな」
「どっち行く?」
「ネコを連絡用に向こうにクユーシーに着けてるからアウソ行ったら?力あるし」
「よし、じゃあライハはここで水汲みよろしく!」
「任された!」
「アタシは?」
「キリコさんは護衛で」
「なんの?」
「火種蟲とか?」
「あー、なるほど。わかったわ」
三人が簡潔に話し合いを終わらせると、それぞれ行動に移っていく。
「安静にしとくってひまだわー」
後ろで詰まらなさそうに言うレディー・カリアの声を聞きながら、イヴァンは頭を押さえつつ計算を始めるのであった。
強がるの良くない。
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