第225話 ナマコモドキの正しい使い方

ひとまず長老に顔を上げてもらい、みんなでどうすればいいかを話し合った。そもそもあれはこちらの生き物ではなく混沌の魔物で、対処法が極めて少ない。


まず、ここエルトゥフの森は根が複雑に絡み合っているので土を引っくり返すのは不可能。

火をつけて爆発させるのなんか、クアブがぶっ倒れてしまうので無理。


しかし、今こうして話し合っている間にも火種蟲は増えている。


「……あの、まずはウンディーネを避難させることってできませんか?」


挙手。

いくらなんでもウンディーネをあのまま放置するのは胸が痛い。アウソも同意のようで頷いている。


「といっても、ウンディーネは清んだ水でしか生きられん。確認してもらったら村の湧き水も全て全滅しとった。今は雨水を使っているが、それも直に底をつくだろう。悔しいが…」


ウンディーネは水の精霊が形を成したもの。移動ができても、まるで植物のように決まった泉を棲みかにして必ず戻ってくる性質がある。そこで疲れを癒したりするのだそうだ。


水精スーイに戻ってしまえば泉は関係ないが、それだとバラバラに散ってしまいウンディーネに戻るのが困難になる。

先日ウンディーネをもとに戻した方法は、熱を喰らう冬に大活躍する精霊、氷精ヒューイに手伝って貰い大気を冷して熱で気化したウンディーネを冷まして、長老の契約精霊を使って形を作ってあげたから。


しかしそれも泉があったから、その水を使って戻すことができたが、今回のだとそうもいかない。


あれだ。バックアップが無事ならいくらでもコピーできるけど、バックアップがやられたら終わりみたいな感じ。


「それで、少し考えがあるんですが。一応確認で、元の水を浄化すればいいんですよね」


「あ、ああ。そうだ」


できるのか?と不安そうに確認してくる。

カリア達もそんなことできるのか?と次の言葉を待っている。


オレも単なる思い付きなので、本当にできるか分からないが時間もない。やってみる価値はあるだろう。


そう思い、水袋からだいぶ萎んで昆布に戻りつつあるナマコモドキを取り出した。


「こいつを使って、ひとまず桶とかに避難とかってできませんか?」


「!!!」


まさに目から鱗。

そんな表現がしっくり来る反応をした長老は、次の瞬間オレに向かって手を合わせた。

やめてください気まずいです。













村中からナマコモドキをかき集め、ウンディーネの泉へと急いで来ると。


「ウンディーネェェェェ!!!!」


泉が沼になっていた。

これはいかん!!

舐めてた!!完全に汚染速度舐めてた!!


エルトゥフ達も総出で桶に泉の水を掬い取りナマコモドキを入れる。はち切れんばかりに膨らみ、透明になったナマコモドキを網の中に詰めて空の桶の上に吊し、すぐさま次の水を掬う。


しばらくそれを続け、浴槽程の水を浄化し終えた。あとはウンディーネが綺麗な水の方へ移動してくれるのを祈るのみ。


ーーー ポシャン。


浄化された水に小さな波が立ち、ウンディーネが顔半分だけ覗かせた。ウンディーネは元の透明な姿に戻っている。


「やった!!これで安心だ!!」


エルトゥフ達から歓喜の声が上がるが。残念ながらまだ元凶はそのままだ。


「これからどうするの?」


キリコが訊ねてくるが、残念ながらここからはなにも考えてない。


「とりあえずナマコモドキで回収できるだけ水を回収します?」


「でもここにあるナマコモドキで村のものは全部です。こんなペースで汚染に追い付けるのでしょうか」


クユーシーがウンディーネの様子を見ながら言う。


村のナマコモドキは20個程。

とてもじゃないが泉全ての水を回収するのはこれでは難しいかもしれない。


「ここから近くの町で駿馬を全速力で南西に飛ばせばナマコモドキを売ってる所がある。これを使って、あるかぎり買ってくるよ。それと、他にも何か思い付いたら、それも」


そう言って、カリアはお金を入れた袋を手渡してきた。


「ちょっとこれ全財産じゃないすか?中身一万カース硬貨ばっかりなんですけど。大丈夫なの?これ後の旅で大丈夫なの?」


「なぁに、無くなったら後で荒稼ぎすれば大丈夫よ」


何でもないように言うカリア。

女だけど男前です。カリアさん。惚れたらどうしてくれるんですか。ザラキさんにぶっ殺されますよ、オレ。


「あなた方だけに出させるわけにはいきません!!クアブ!!!」


「はい!!」


「儂の金を全て渡せ!!!」


「いやっ、しかしっ!長老!!」


「バカモン!!!森の緊急事態だ!!エルトゥフの名に懸けて森を!精霊を守るんじゃあ!!!」


「はいーっっ!!!」


まさかクアブが長老に声負けするとは。

すぐさまクアブが麻の袋を手渡してくる。

待って、オレの手に恐ろしい額が握られてる。怖い、とても怖い。しかもこれ流れ的にオレが買ってくることになってますよね。


「キリコ、頼んだよ!」


「任せて、師匠! ほら、ライハ急ぐわよ!」


「了解であります!!」


カリアに勢いで敬礼すると、エルトゥフがすぐに走らせられるように用意してくれた灰馬に跨がり、キリコと共に指示された町へと速度新記録を出すつもりで、全力で灰馬を走らせた。

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