第197話 エルトゥフの森での攻防.4

迫り来る火の玉が自棄にスローモーションだった。その間、オレの頭は全力で働いていて、この状況を打開できる方法を探していた。


確実にオレの反転の呪いは役に立たない。


避けるのは数的にも速度的にも不可能に近い。


盾に出来る物はない。


視界の端では、カリアとアウソが出来る限りダメージを軽くしようと防御体勢を取っている。ちなみにオレのいる所はほぼ真ん中に近く、今から全力で走ったとしても攻撃を食らう。


覚悟を決めるか。


既にキリコは元凶のインコ、リュニーへと駆けている途中で、オレも短剣を手に炎へと向かって足を踏み出した。

全身焼かれる痛みはどれ程だろう。


あいにくまだ焼かれた経験がないので分からないが、せめて目とかは守らないと、と、顔を庇いながら突っ込んだ。


が、炎に触れる直前に、背中側から爆発でもしたのかと思うほどの圧力に飲み込まれた。

視界に散るのは小さな水の塊だ。


ーーバシュウウウウウウウ!!!!!


白い蒸気がもうもうと立ち上ぼり、凄まじい熱気と圧力に揉まれながら、ようやくウンディーネが火の玉に対抗すべく大量の水を放出したのだと理解した。


熱が僅かに和らぐ。

これなら行ける!!


「うおおおおおお!!!!」


後ろからの水の圧力を利用して前方にいる敵に斬りかかった。

ズバンと、綺麗に切れる感触と同時に、腹部に強い衝撃が来て吹っ飛ばされた。


「がはっ!?」


激しく木に叩き付けられた。

幸いにもギリギリで受け身をとれたので、頭を打つということはなかったが、腹の攻撃が効いた。なんだあの感触。岩で殴られたのかと思ったぞ。


『あいつ、チハのお気に入りを切り裂きやがった…!』


煙が立つなか、蜘蛛人間、チハが腕を忌々しげに見詰めている。


袖は破け、腕も少し裂けているように見えたが、しかしその腕はすぐさま修復した。腕は岩のように硬い物で覆われてるように見える。もしやオレはあれで殴られたのか。


腹を押さえつつ立ち上がる。

ズキズキと体中火傷やら殴られた痕で痛むが、それがジワジワと和らいできているのが分かる。ネコが身代わりになって治してくれていた。


そういえば、キリコはと視線を滑らせると、燃え盛るリュニーを踏みつけていた。だが、その視線は足元のリュニーには向けられておらず、上を向いていた。


「インコが二羽!?」


上空に無傷で嗤うリュニーが旋回していた。

何でだ?さっきまで一羽しか居なかっただろう。


『ゲアッ!ゲアッ!ゲアッ!』


不快な笑い声を放ちながら、リュニーはキリコとオレに向かって火の玉を連続で放つ。


恐ろしい速度で迫り来る火の玉がキリコに直撃したのを見ながら、オレはそこから飛び退いた。

炎耐性があるのは知ってるが、はっきり言ってこっちが見ててハラハラする!


『ほーらほら!逃げ回ってばかりじゃ楽しくないだろ?先に始末した二匹も仲間がそんなに弱気だと悲しく思っちゃうぞー!!』


チハが楽しそうに笑っているが。残念、うちの仲間達はあれしきでくたばるわけがない。


「アウソ!!腹だ!!狙え!!」


炎の中からキリコが指示を出す。すると、未だに煙が滞留する場所から銀色の光が一直線にリュニーへと伸びた。


『ゲアッ?ーーー!!!』


リュニーが慌てて上空へと火の玉を吐き出した。


その直後、アウソの槍がリュニーの腹を貫くが、インコは炎の塊となって崩れた。


なんだ?今の動き。


『ギャアーーーーー!!!キハ!!こいつら鋭いぞォォーー!!!』


「!!」


吐き出された火の玉がみるみるうちにリュニーの姿へと変わる。それを見てキリコが舌打ちをした。


『どこ見てんのさ!!』


目の前にチハが現れ、岩のように硬質化した腕が迫り来る。

まともに喰らったらまた吹っ飛ばされる。


短剣を利用して受け流す。


だが、先程の切りつけによってヒビが入ってでもいたのか、受け流した瞬間短剣の刃が中程から綺麗に折れた。


「ちっ」


『終わりだと思ってないよねぇ?』


「!」


二撃目。


黒刀を抜く余裕等ない。

腕を使い、二撃、三撃目と何とか受け流すことが出来たが、明らかに腕にヒビが入った。

あともう一発喰らえば折れるかも。


せめて抜く数秒が欲しいと思った時、笑っていたチハの顔が驚きに歪む。


チハの横腹から突き出す刃、チハの背後に見えた紺色の髪。

カリアだ。


(今しかない!!)


流れるように黒刀を手に取り、チハの細い首目掛けて全力で振るった。

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