第196話 エルトゥフの森での攻防.3

飛んでいった杖を見付け拾い上げると、杖に埋め込まれた珠に突き刺さっており、杖自体もバチバチと放電していた。

魔力を見てみると、割れた珠から魔力が煙のように流れ出ていた。

杖自体にはなにもないので魔具とか言うやつだろう。


とりあえず墓標代わりに地面に突き刺すと、オレ達は先を急いだ。





「さっき何が見えてたの?」


移動中アウソに訊ねてみた。

反転の呪いの効果で幻覚とかの魔法が効かないので気になった。


すると。


「一面さっきの豚。多分木も身代わり的な対象だったんじゃね?」


だと。

見えなくてよかった。









ゴーレムだか巨木だかに吹っ飛ばされてきた魔物が空から降ってきた。体の一部がない。

よくあの地獄絵図な場所をエルトゥフ達は動き回れるなと感心した。


「ライハ、集中」


「へい」


そっからは特に襲撃されることもなくーー空から魔物だったのが降ってくるのはあったがーー、今のところは何事もなく裂け目の近くまで接近できた。


ここまで来れば、と、ほんの一瞬油断した時だった。


「!!」


「うごっほお!!!?」


突然キリコに蹴り飛ばされた。


あまりにも突然すぎて受け身すら取れずに転がり、顔をあげた瞬間オレが居た所に火の玉が突き刺さり、盛大な火柱が上がった。


その向こう側で、カリアとアウソが地面に伏せており、キリコに至っては既に避難済みであった。


「…キリコさんありがとうございます」


「礼を言うのは後よ」


蹴られた所を擦りながらキリコの元へと行くと、キリコが上を見ている。


釣られてオレも上を向くと、インコが飛んでいた。


一見すると何の変鉄もないインコに見えるが、尾が魚のような形で、まるで泳ぐように飛んでいるのが不思議だった。


そこで、あの羊豚鬼の言葉を思い出した。


火を使う魚って、もしかしてこいつのことか?


インコは上空を旋回すると、突然大きく口を開けて叫び始めた。


『ギャアーーーーー!!!グラドが殺られた!!グラドが殺られた!!キハァアーーーー!!!ここに獲物がいるぞォーーー!!!』


ゾワリと全身に鳥肌が立ち振り返ろうとした瞬間、顔のすぐ側を何かが風を纏ながら通り過ぎていった。


後ろから硬い何かが木に突き刺さる音が響く。


『…ア?おいおいおい、何の冗談だ?』


幼い子供のような声が、何かが飛んできた方向から聞こえた。


茂みを踏みつけ現れたのは人の腕ほどもある昆虫の脚が八本。


蜘蛛に似た脚の上には蛙のようなフード付きの服を着た幼い子供の上半身がくっついていた。額には小さいながらも角が生え、腹部の下の方には立派なハサミの様な牙、そこから滴る液体が煙を放っていた。


蜘蛛人間の複数の目が一斉にこちらを向いた。


『なんで同族が人間の真似をしてるんだ?いや、いいや。とりあえず計画の邪魔をするなら皆殺しにしろって言われてるし、特に問題ないか』


インコが蜘蛛人間の隣に並ぶ。


『殺れ、リュニー』


こちらを指差すと、一瞬の内に視界一杯に火の玉が現れ、それらが一斉に飛んできた。

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