第179話 痛み分け
イメージ的には水全体が明るくなり、オレ達は死なない程度に痺れると思っていた。
が、現実は違った。
「熱っ!!?」
雷を放出すると水かキラキラと光を放ち、突然白い蒸気の様なものと、黒い液体とに分かれた。黒い液体は重力に従って落ち、蒸気は熱を持っており、あっという間に霧散した。
まるで水風船を針で突いて破裂した時ような分離の仕方に、驚きと熱さとに慌てながらも地面に何とか着地できた。
「あつつつつつ!!!熱い!!熱い!!」
叫びながら手で服に染み込んだ熱湯を叩く。
そんなことで冷めるわけではないが、何かしないと熱くて痛い。
「げほっ!くそ悪魔め!!てめえマジぶっ殺す!!!」
後ろからキリコの怒気と怒りの声。
「カリアさーーーん!!!」
前方からはアウソの叫び声。
何が起きているのか分からない。何せ水蒸気のせいで視界は白一色、音でしか状況を把握できないから焦る。悪魔はどうなった?そしてカリアはどうした!?
『おのれえええええ!!!!』
「うわ!!!?」
突然白い視界から悪魔が飛び出して襲い掛かってきた。鬼のような凄まじい顔をして、火傷の跡のある腕を伸ばし、鋭い爪を突き立てようとしてきた。
背中の触手は残らず焦げ尻尾も途中から切断され、体中は火傷と細かい切り傷、殴られた跡。まさに満身創痍状態。
『貴様のせいだ!!!貴様のせいで私がこんな目にあっているんだ!!!』
とんでもない言い掛かりである。
咄嗟に黒刀で爪を防ぐが、一撃でも入れてやるとか思っているのか一歩も引かず。ギチギチと黒刀が鳴る。悪魔とは言え、女なのになんて力だとか思ったりしたけど、そういえばキリコもカリアも女だったと思い出した。
「ぐ、うーーーっ!!」
なんならこの状態で雷を出してやろうか。
そう考えたとき、視界の横から黒い物が悪魔の顔目掛けて飛び掛かった。
ネコだった。
『シャーーーーッ!!』
ネコは悪魔の顔に飛び移ると、そのまま顔に爪を立てて思い切り引っ掻いた。
『ぎゃああああああ!!!!』
悪魔の大絶叫。
分かる。ネコの爪って痛いよな。
ネコは再びこちらに飛び移り、悪魔は顔に両手を当てて叫んでいた。
オレが悪魔に同情しかけていたその時、激怒したキリコが現れた。手には短剣。それを悪魔目掛けて振り下ろす。
『!!』
すんでで気付いた悪魔が咄嗟に腕を盾にした。
深々と右腕に突き刺さる刃。
キリコは短剣を離し、その場で回転をすると蹴りを放った。
腹に喰らった蹴りによって転がる悪魔。
『くそっ!』
悪魔は腹を押さえて立ち上がり、駆け出した。
その一瞬、オレを睨み付ける。
『同胞の癖して人間の側にいるなんて!絶対に、赦さない…。いつか痛い目に遭わせてやるから!』
悪魔の姿が消えた。
まるで掻き消えたかのように。
急いで近くまでいくと地面が裂けていた。
その中は一切の光もなく真っ暗で、黒い光がパチパチと弾けながら立ち上っている。
反転の呪いが作用しているらしく、体の疲れが取れていく。とすると、ここら辺はカリア達には毒のはず。
「そういえば、カリアさん!」
アウソのあの焦ったような声。
薄まりつつある煙の中から、二つの影を見付けた。
「カリアさん!カリアさん!」
アウソが必死に呼び掛けるが、カリアは返答しない。
「!」
急いで側まで行くと、オレは驚きに目を見開いく。
カリアが腹から血を流し倒れていた。
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