第168話 迷宮へようこそ~“威圧”の使い方~
また余計なもの背負い込んだけど、オレは頑張れると信じています。
そんな感じで自己暗示しつつ、まだ不貞腐れているネコの様子をみつつカリアの後に続いて歩いていると。
「あ!!」
壁に何かを彫りながら進んでいるアウソと合流した。
「カリアさーん!!と、ライハ」
「なんでオレの時にテンション下がった」
「何となく」
壁を見ると矢印のようなものが彫られている。
それがアウソの来た方向の壁にずっと続いていた。
それが綺麗に並びすぎて、壁の模様なのかと思えるほどだ。
こういうマメな所本当に凄いと思う。
オレは無理だ。
「あとはキリコね。といっても何回か潜ってるから大体の地図は分かるから問題ないんだけど」
「そういえば、来る途中の道で何か聞こえたような」
「声が?」
「なんか、興奮した鳥みたいな声」
「行ってみます?」
アウソに案内されて辿り着いた所は、オレが蜘蛛に追い掛けられて飛び越えた裂目だった。
そこには嘴に牙のはえた鳥がたくさん飛び交っていて、ギャアギャアと狂ったように鳴いていた。
下を覗き込むアウソが「あ!」と声をあげた。
「キリコさんだ」
「あら、ほんとよ」
「群がられてますね」
鳥に。
それをキリコは壁に引っ付きながらも器用に蹴り飛ばし、払い落としているようだが、いかんせん場所が場所なわけで上手くいっていない。
「ライハ」
「了解でーす」
雷の矢で、目につく鳥を落としていくと、標的をオレに変えたようで。
『ギャアアアーーー!!!』
目を真っ赤にした鳥たちが襲い掛かってきた。
だが、忘れてはならない。
キリコとは違い、こちらは三人いる上に十分に戦える足場がある。
さて叩き落とそう、と思っていたら。
「戦闘において、求められるものは純粋な戦闘能力と回避力。そして、余計な戦闘を回避する為の技も存在する」
唐突に始まったカリアの講座に、オレとアウソははてなを浮かべて顔を見合せ、ネコは不貞腐れながらも耳をたてた。
「その内の一つが“威圧”。状況によってこちらが不利になったりするけど、今の状態ではもっとも威力を発揮する」
迫ってくる牙鳥の群れに視線を向けながら、カリアは大きく息を吸う。
「見てるよ」
ぶわりとカリアから何か圧力に似た何かが大量に発され、その場にいる全ての生き物(オレ達も含む)がまるで背中に剥き出しの刃物を当てられたかのような感覚に陥った。
少しでも動けば終わる。
呼吸や瞬きすら出来なくなるほどの重いびりびりとした圧力に、オレは今すぐにでもこの場から逃げ出したい衝動に囚われた。
『ギャ、ギャー!ギャー!』
しかしオレが逃げるよりも前に鳥たちが一斉に逃げ出した。
それはもう一心不乱に。
圧力が緩んで霧散すると、ようやく普通に呼吸が出来るようになった。
「これが“威圧”。普段から全方位に解放して、余計な戦闘を回避する人もいるけど、これは周りから人も居なくなるし、うっかりしたら威圧を引っ込められなくなる人もいるから扱い注意ね。おすすめは狙った相手だけに放つのが一番」
額に手を持っていくと冷や汗を掻いていた。
ああ怖かった。
「キリコさん無事ですかー!?」
アウソが下のキリコに声を掛ける。
「ちょっと師匠!!威圧するなら事前に言ってくれないと!!危うく応戦しそうになったじゃない!!」
珍しくキリコがカリアに怒る。
「と、あんな感じに血の気が多い戦闘民族や決死覚悟で向かってきているのには火に油だから、使うときは十分に気を付けるよ」
「………」
(流石キリコさん。オレあんな威圧の最中で戦おうとは思えないです)
その後、いったん反対側の通路に辿り着いたキリコは、ボウガンの矢にロープをくくりつけてこちら側の壁に飛ばすと、三人でロープを握りターザンの要領でキリコがこちらに渡ることが出来た。
「いやー、参った。まさかこんなところに放り出されるだけでなく、上から大蜘蛛が降ってくるし魔鳥の群れに襲われるし、散々だわ」
大蜘蛛…。
それもしかしてオレを追い掛けてきたやつか?
思わずキリコから顔を反らしてしまった。
「これから、こんな感じでどんどんコッチの持ってる技を教えるから、死ぬ気で覚えるよ。あと、この迷宮を抜けてから二人にもライハから話すことがあるから」
「?」
「え、今言えばいいじゃない。ダメなの?」
「一応大事なことだから、安全なところが良い」
「オレもカリアさんに同意見です」
さっきは頭がパンクしそうでカリアに話すことによって整理していた部分もあるから、二人に話すときはもう少し整理して理解した上で説明したい。
「本人がそう言うなら仕方ないわね」
キリコが納得してくれた。
そこからは至って順調に迷宮巡りを進めていき、貴重な原石や宝石を広い集めつつ、カリアからの技の伝授が行われた。
カリアの技は多種多様だった。勿論見たことのある物もいくつかあったが、改めて集中して見ると新たな発見も多かった。
特に多かったのが、
体の一部を刺激するだけで、獲物を転倒させたり、昏倒させたりと、何というか地味な攻撃なのに相手は大ダメージなのが怖い。
そういえば、前カリアと手合わせしたときに腕の一部を指で突かれただけで、凄まじい痛みが走って剣を離してしまった事があったが、恐らくアレも何かの技だったのだろう。
そうして迷宮の中で3日過ごし、ようやく迷宮内を看破したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます