第102話 食え!

空が明るくなってきた。


「さーて、腹も減ったしそろそろ戻るか」


「はい」


そしてオレは隣でだいぶ小さくなった猫を回収した。大きさは初期の猫だ。懐かしい。


『し…しぬ…、しんでる…』


「大丈夫まだ生きてるよ」


『ちょっともう動けないから、はこんで…』


言い終えると猫は寝た。

それはもう死んだように。そのうちイビキかくんじゃないか?


オレは猫をフードに入れると大きく伸びをした。


「はぁー、まったく難しいなぁ」


今日の修行の結果、

色なし魔力を全く見付けられませんでした。


さすがザラキさんが習得高難易って言うだけあるわ。もう清々しいほど見付けられなかった。ここまで見付けられないと悔しい感覚もないね、完敗。


「一晩で見付けられたら俺はお前をさん付けで呼ぶことになってたんだが」


「ですよね」


そんな簡単なわけない。


「でもこっちも全力で協力するから、俺が自力で習得したときよりも早く身に付けられるだろう」


「ちなみにザラキさんはどのくらいでアレ出来るようになったんですか?」


「そうだな、まずお前と違って色付きさえ見えなかったうえに仮説を立てるところから始めたから、軽く五年かな」


「ねぇ、オレこれからその五年の密度を二週間で叩き込まれるって事ですか?最終日オレとネコ生きてますか?」


「心配するな、蘇生法は一通り出来る」


「なるほど、今の話を聞いて膝の震えが止まらないですわ」


ちくしょう、ここにカリアさんとは違うベクトルで吹っ飛んだ鬼がいるぜ。






「行ってくるよー!」

「ちゃんと真面目にやりなさいよね!」

「お土産楽しみにしてろさ!」


「行ってらっしゃーい!気を付けて!」

「帰るときに美味い酒買ってきてくれ!」


「それは自分で買え!!!」


三人が見えなくなるまで見送って、カリアに怒られたザラキは「あーあ、怒られちゃった」とか言っていた。わざとだろう。


朝食は先程とったのでお風呂に入って寝ることにする。すごく眠かった。






日が少し傾いた頃に目が覚めた。


「おはよう」


「おはようございます」


「ネコは?」


「まだ伸びてます」


席について水差しからコップに水を入れて飲む。うまい。


「まぁ、仕方ないか。多分自力での形を留める練習をしたのが初めてなんだろう」


「どういう意味ですか?」


「あいつはお前の魔力だけを便りに生きていたらしいが、これからは自らの力を使って生きていかなきゃならんって事だ。昨日、呼吸を確認できたからな」


「なるほど」


呼吸が出来るなら、自力で魔力を取り込む事も可能だという意味か。


「さて、ご飯にするか。修行中は死ぬほど食べてもらわんと体が持たんからな。食事も修行だ、作るの手伝え」


「アイアイサー!」


この世界に来てから、というかカリア達との旅の間、食事は共同作業だ。火起こしから獣を捌いたり、後始末まで全部。

あちらに居た時は親が作ってて、コンビニに寄って買って食べたりしていたが。


「なんだ、お前思ってたよりも捌くの上手いな」


「キリコさんに教わりました」


今はもう手慣れたものだ。

火付けも、後始末も、狩りをするのも。


急所を見付けるのも、もう自然に出来る。


「………」


「…? どうした?」


「いえ、なんでもないです」


作っているときに思ったけど、これ二人分の量じゃねぇ。


「こっからここがお前の分な」


そして全体量の2/3をこっちに寄せてきた。マジか、おいマジか。


「マジか」


「知ってるか?魔力ってのは食っても得ることが出来るんだぜ。まぁ、呼吸よりも劣るしそれなりの量を食べればだが。ついでにいうと氣はよく食べて体を動かせば増える。強くなりたくないんだったら別に良いぜ」


「いや食べますよ」


食べた。


「吐きそう」


「耐えろ」


鬼。


ちなみにこれネコもやられていた。

起きて即行馬鹿みたいな肉の量に引いていた。

どれくらいかって?山羊二頭でしたよ。

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