第103話 とんでもないシャトルラン
次の修行はひたすら走ることだった。
「うわ、うーわ!走りにくいっ、うえに怖い!!」
山の中を上がったり下がったり。
小屋の場所から山頂までをひたすら往復。小屋の場所は山の中腹なのでそこまで距離は無いのだが、昨日とは違い安全面を配慮したところではなくほぼ直線。
これなんてシャトルラン?
前を見る。
先を行くザラキの涼しい顔よ。
さすがムキムキ。
「はぁ、はぁ、よっと!」
ルキオの山だからかも知れないが、やたら障害物が多い。だから登るときは慣れてないので手も使って根を乗り越え、崖をよじ登り、下りるときは樹にぶつかって減速しながら恐怖を押し込んで崖を飛び降りる。
『ぜぇ、ぜぇ…』
「ほら頑張れ頑張れ、しっかり呼吸しろ」
ネコが苦しそうに呼吸している。ちなみにネコは普段呼吸をあまりしなかったらしい。理由は呼吸しなくてもオレの魔力で生きていけたから。今は魔力使用を禁止されているので必死で呼吸している。生きるために。
『たっ、たいちょー!!』
「ザラキさん、ネコが呼んでます!」
「なんだ?」
『崩かいしそうです!!』
「崩壊しそうらしいです!」
「よし、呼吸を二倍深く吸って堪えろ」
『ぎぇええええ!!!』
ネコが悲鳴を上げている。しかしザラキは止まらない、カリア並みに鬼である。
それにしても、カリアとの地獄の鬼ごっこがまさかここで生きるとは思わなかった。
あんなに死にそうに森を駆け回っていたのに、今はまだ余裕がある。いや、息は切れてるし足痛いんだけどね、心の余裕があってまだマシだ。少なくともネコよりは。
「なんだ、余裕か?」
「カリアさんとマテラで強制的に移動力を鍛えられていました!あと少しザラキさんの動きを真似てますスミマセン!」
「いや、それは良い事だ。上手い奴の動きを真似て自分のものに昇華できるならどんどん真似ろ。ただし役に立たんやつは真似なくていい!」
「はい!」
しかし、心はやる気でも体は着いていけないときがある。
足を滑らせた。
「ぎゃあああああーーッッ!!!!っぶ!?」
「あっぶねー、間に合ってよかったぜ」
何度も飛び降りていたから慣れたと油断していたら、足が縺(もつ)れて盛大に石を踏んで頭から落ちるところだった。幸いに先を行ってたザラキが気付いて背中側の服を引っ張ってくれて助かったが。
(うおおお、足裏が痒くなる…)
足の裏が宙に浮いてる。
命の危機が襲うと、さっきまで慣れてきた崖の高さが怖くなるんだな。
「じゃあ落とすぞ」
「へ?」
途端包まれる浮遊感。
引き上げてくれないんかい!
着地の瞬間転がって衝撃を逃がす。
うまくいって良かった。
「……あれだな、心と体は別物なんだな。よーくわかった」
条件反射の受け身然り、先程の足が縺(もつ)れたのも然り。
今でも心臓がドッドッと早鐘の如く鳴っている。
「おい早くどけ。潰すぞ」
「おわああ!?」
慌てて飛び退いたらザラキが先程までオレがいた所に降ってきた。ほんとこの男容赦ない。
『大丈夫かー?』
ついでにネコも降ってきた。
可愛い。唯一の癒し。口悪いし生意気だけど。
「さーて、そろそろライハ君の体力が限界な様なので休憩するか。丁度夕方だしな」
『わーい!』
「ただしネコは駄目だ。魔力使用禁止続行!!!」
『ちっくしょおおおおお!!!』
ネコが荒ぶってる。無理もない、全力で同情してやる。同情だけな。
「じゃあライハ、先に行って狩の準備しておくから早く来いよ」
「へい」
そしてザラキは先に行ってしまった。
あの人オレとの修行本当に手加減しているんだな。ずーっと息を切らせっぱなしのオレとネコに対しザラキは息を乱すどころか汗一つかきやしない。
そして先に行くと言ったザラキの山の降り方が、言い方悪いけど猿みたいだった。
身軽にも程があるだろう。
「はぁー、道のりが遠すぎる。ネコ、降りるぞ」
『ふぇーい……』
テンション駄々下がりしているネコを連れて、オレも山を降りた。
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