第72話 コソコソ
「これか」
ウレロの首輪をみんなで見る。
電気膜で光を作り出しているから、夜目の利かない人にもちゃんと見えた。あまり協力的でなかった人も、好奇心からかやって来てどれどれと眺めつつ、手を当て考えている。
なんで今まで気が付かなかったかといえば、やはりこちらにも意識逸らしの魔法が掛けてあった。もうみんな集中して見てるから関係ないけど。
「これ、触っても平気なのか?」
「さぁ?どうだろう」
「それにしても分からないはずだ。こんな暗い中、わざわざ首輪を調べようとしないからな。しかも首輪の色と同化している」
「ライハの説明から推測すると、恐らく上の魔法陣はダミーかなんかで、本物はこの首輪に彫ってあるやつ。で、多分格子にも触れると発動する仕組みだったんだろうさ」
「多分ね」
本当に上の魔法陣がダミーなのかは分からないけど、もしそうだとしたらオレ達だけ感電するのは納得できる。
そして、毎回感電させてくるあの男の持っている物も何かしらの魔法陣が彫ってあるのだろう。
「これは解除しても良いと思う?」
「出来るのか?」
「一応、できると思う。ただ問題は、これを解除したときに奴らにバレるかどうかなんだけど」
「………うーん…」
考え込んでしまった。
もし、バレたら徹底的に痛みつけられる、最悪殺される可能性もある。
どちらか分からない以上、これは大きなリスクとなる。
しばらく考えた後、ウレロが口を開いた。
「俺が引き受けよう」
「え」
「いや、お前。もし失敗したら…!」
心配する獣人達。
「そうだ、もし失敗したら、こっちにとばっちりが来る可能性だってあるんだぞ!!そうしたらどう責任を取ってくれるんだ!!!」
「そうだそうだ!!」
と思ったら非協力的な方達から違う方向からの批難の声。さすがに堪忍袋の緒が切れた獣人の方達が立ち上がり唸りながら応戦。
「はあ!?なんだ、じゃあお前らはこのままでいいって言うのか!?」
「んなこと一言も言ってねーだろーが!!これだから下等生物は考え無しなんだと言っているんだ!!!こっちはなあ!お前らみたいなのと一緒の空気を吸っているのだって苦痛なんだよ!!」
「人間が!!偉そうな口を利くのも大概にしろよ!!ガルルルルッ!!!」
「まぁまぁまぁまぁ!!!今は喧嘩している場合じゃないでしょう!!!」
「「妖人族(エルトゥフ)は引っ込んでろ!!!」」
「はいぃ…ッ!!」
そしてその喧嘩を止めようとした耳の長い種族、妖人族(エルトゥフ)の青年が双方から怒られ、耳を下げながらスゴスゴと後ろへと下がる。
可哀想に。
「いや、言い出したのオレなんで、オレがやります」
そう手を挙げて言う。
「いやいや、人は怪我をしやすい。もしものことがあったら」
「大丈夫です。実はオレ、怪我が治りやすい体質で、それに奥の手も持ってますから」
奥の手と言っても身体能力向上とスタンガンくらいだが。だが、怪我が治りやすいというのは本当だ。ここ最近、やたら怪我の治りが早い。特にこの数日なんかは傷が半日で治る。
何でだか知らないが、おかげでこの中ではまだ比較的元気な方なのだ。
顔を見合わせる獣人達に、なら任せたと鼻で笑ってまた端の方に戻っていく人。アウソは心配そうな顔をしているが、まぁ何とかなるだろうと説得した。
「じゃあ、解除します」
電気幕を解除して、指先を自分の首輪の後ろへと回す。ゆっくりと擦(なぞ)り、指先がふいに冷たいモノに触れる。ゾワリとした冷たさに鳥肌が立つが、それを我慢しながら目の前のウレロの首輪の魔法陣を参考にニックとの記憶を探りつつ重要な箇所に触れていく。
冷たいものが指先から肘へと流れ霧散した。
これで解除できたはずだ。
「できたのば?」
動きを止めたオレにアウソが声を掛けられ、それに頷く。
「とりあえずは解除できたと思う…、けど。うん。ちょっと確かめるわ」
手を格子に近付け、掴む。
電流は来なかった。
「おおお!!!」
「スゲー!!お前スゲーな!!」
「いやー、上手くいって良かったです」
「まぁ、とりあえずそれで奴等が来ないかどうかを確認しないといけんけどな」
「それな」
食事三回ほどの時間様子を見て、何事もなければ皆の魔法陣も解除してやろうと思う。
1度目の食事も変化なし。
次いで、2度、3度と特に異常が無かったので気付かれなかったのかと安心し、いそいそと隠れて魔法陣の解除をして回り4度目の食事の時には全解除を終えていた。
が。
「違う、お前じゃない。黒髪のお前だ。お前に用がある。出ろ」
「えっ」
いつものアウソの呼び出しかと思いきや、何故かオレをご指名。
うそバレた?
錆びた歯車のように首を回し、みんなを見る。
アウソも獣人達も青ざめている。
あ、これはダメだ。恐怖が感染してしまう。
一旦深呼吸して立ち上がる。
大丈夫だ、もしかしたら別の用で指名されたのかもしれない。アウソだって戻ってきてる大丈夫だ。
「じゃ、ちょっと行ってきます」
出来るだけ何でも無い、ちょっとコンビニ行ってくる感じの顔をして牢を出た。
心臓がバクバク鳴っている。
前と後ろに体格の良い男。前にいるのはよくアウソを連れ出す角付(つのつ)きだ。
カツカツと足音が響く。
時おり今までいたような牢があり、その中には人や動物が入れられている。
「…………」
その中でも小山のようなデカイ犬が牢の中で爆睡しているのは素直に凄いと思った。主に神経の図太さが。動物だからか?
何となく見たことのあるような扉を潜り、いくつもの角を曲がる。すると岩肌が剥き出しだったのが、途端にコンクリートの壁になる。
(何か、今まで木とか煉瓦とかだったから違和感あるな。というか、あるんだ。コンクリート)
向こうよりは綺麗ではないが、不思議な感じだ。
「お前、何であそこから出されたか分かるか?」
大きく心臓が鳴る。
「…いえ、わかりません」
冷や汗が流れる。
ひたすら床を眺め、着いていく。
「お前、変な能力持ってるよな」
「能力?」
何の話だ?電気が効きづらい体質のことか?それとも反転の呪いの事とか。
「怪我が治りやすいみたいだな。首輪を着けている間は魔法が使えないように遮断する魔方陣が彫ってある」
そうなんだ。
「勿論治癒魔法もだ。そんな中でお前だけやたら怪我の治りが早い。そんな事が出来るのは、そういう種族のやつか、人間のふりしている何かだ」
話を聞いているうちに首輪の魔方陣を解除したのはバレていないようで安心したが、違う意味で冷や汗が流れ始めた。
つまり、人間のオレがそんな即回復の仕方はおかしいっていうことだよな。え、なにそれ。オレ人間だよ。ちょっと呪い掛かって夜目が利いて傷の治りが早いだけの人間なんですよ。
「………人間です」
「まぁ、人間だったとしても面白いし、それを上に報告したらよ是非とも有効活用してやろうって話になってな。栄光に思えよ、あの牢の奴等は餌になるしか無い奴等ばっかだが、お前は運が良ければ外に出ることが出来る」
「?」
色々聞きたいことがあったが、口を開く前にある場所へ辿り着いた。
傷だらけの鉄門。
何か既に鉄臭い。扉のせいではないと思う。多分。
それにとても悪い予感がする。
「入れ」
扉が開かれ中に入れられる。
部屋は赤色の床に、また別の扉が二つ。
一つは左側。もう一つは正面に。
正面の扉は後ろの扉と同じ鉄製なのだが、ゴツイ南京錠がたくさんぶら下がっている。
「…………なにここ。うわっ!」
後ろからガシリと腕を掴まれて固定され、その正面で手枷からある程度自由の利く長さの鎖が付いた手錠へと着け替えられた。
手錠はしっかり鍵を掛けられ、鍵は他の鍵と一緒に角付きのポケットの中。
「接近戦の武器は何が使える?短剣でいいか?」
「短剣でいいだろ。在庫たくさん有るし。前に死んだのがあるから、それ使わせとけ」
「そうしよう」
待って、何の話か全然わからない。
本人置き去りにして話がどんどん進み、気が付けば鍵付きの扉の前に立たされていた。
「向こうの準備は出来ただと」
「よーし」
突然頭に大きな手が乗せられ、肩が跳ねた。
「短剣は中にちゃーんと放ってやる。中は、そうだな。ちょっとおっかねーのがいるが、うまく倒せば生き長らえるぜぇ。だから、まぁ、なんだ」
扉が開けられ中へと背中を蹴り飛ばされた。
コンクリートの床に倒れ、後ろを見ると、男達が笑いながら徐々に扉を閉めていく。
「簡単に死んだら楽しくないから、精々頑張れ」
バタンと扉が閉められ、中から鍵を掛ける音がした。
「………ちょっと待って!!本当に意味が分からないんですけどー!!」
その時、いくつものバイオリンを引き損ねたような不協和音が重なりあった音が響き渡り、慌てて前を向いた。
「ふぁっ!!!?」
そこには顔と体は狼、ライオンのようなたてがみと大きさ、大鷲の翼、背には甲羅のような鎧、四肢は鷲の鉤爪に尾は蜥蜴というキメラが反対側の扉からやって来ているところだった。
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