第55話 突入開始!!
一月ほど前、突然レーニォの弟がいなくなってしまったらしい。
「そっからや、次々と人が消え始めたのは…。そして段々と物も届かんくなって、早馬を出しても事態は解決せえへんし、賊が原因なんだろうとは薄々感付いとっけけど、俺ら村人やしどうにも出来んかったんや…」
キリコとサズがタイミングを図るなか、オレとアウソはレーニォの話を聞いていた。
「ほんにグルァシアスな。君らが来てくれんかったら、そのまま奴等の縄張りになっとったわ」
「まぁまぁ、レーニォさん。お礼を言うのは弟さんを助けてからでしょう」
「やさ、まだ気が早いばーよ」
レーニォさんの肩を軽く叩きながら前を向く。
そうだ。お礼を言うのはまだ気が早い。話を聞きながら、オレは前キリコがしてくれた鷲ノ爪の話を思い出していた。
やつらは鷲のように獲物の隙を狙って襲い掛かり、あっという間にかっさらっていく。
珍しいモノは見世物小屋へ、見目美しいものは金持ちへ、その他のモノらは世界中の奴隷商へと売り付けるのだ。
地域によって期間は違うが、閉じ込めておくのは二週間から一月ほど。
理由は軍に見付からないようにするためと、奴隷を知らない地へ引き摺り出して故郷には帰れないという事を教え込む為らしい。
勿論逃げられもしない。
奴隷には隷属(れいぞく)の魔具(まぐ)が付けられており、主の命令を必ず遂行させなければ体に激痛が走る魔法が施されている。さらに一定の距離から一歩でも出れば脱走抑止の魔法が発動して奴隷に死ぬほどの苦痛を与え、もしそれに耐えきれたとしても近い内に気が狂って死んでしまう。
(弟さんが、まだ此処に居ればいいんだけど)
それだけが気掛かりだ。
「そろそろ突入するよ。用意しといて」
その言葉を聞いて各々武器を手に取る。
オレは昼に購入した短剣と腰にいつもの黒刀。アウソは珍しく棒ではなく、金属製の前腕程の長さの棒に握り棒が付いているトゥンファーという武器を両手に持っていた。
ちなみにキリコは賊が持っていた魔銃(今は普通の銃弾しか装填されてないのでただの銃)とナイフだ。
洞窟を見てみると、中で何が起こっているのか爆発音と悲鳴がひっきりなしだ。
「いい?出来るだけ姿勢は低く、早く、戦闘は回避して進むわよ」
「どうしようもないときだけ切り進め。だが切られたとしても助けてやれる余裕はないからな。倒れたとしても置いていく。それは覚悟しておけ」
激を入れられ、オレやアウソ、その他の潜入組面々が気を引き締める。キリコが指を三本立て後三秒だと知らせる。
「…さん、に、いち…、いま!」
突撃とばりに先頭の二人が駆けていく、それに続いて突入し洞窟内の惨状を目にした。
壁は焼け焦げ、あちらこちらに人が倒れている。それは賊だけでなくハンターの姿もあった。
そこへ一人の男性が近寄ってくる。
敵かと一瞬身構えるも、その人はこちらへ向けていくつかのハンドサインをするとまだ戦闘が行われている所へ戻っていく。
「ウチんところのハズデ手語さ」
驚いたようにアウソが言う。
「ルキオの?」
「そう」
「『右の通路へ進め、敵はあらかた片付けた。奥の方に階段がある』と言っている」
そう答えたのはサズだ。
「俺ん所のパーティーはルキオ出身が多いんだ」
「なるほど!じゃ、場所も分かったし行くわよ!」
サズのパーティーの協力によって得られた情報を元に右の通路へと進んでいく。途中、倒れた人に紛れて奇襲を掛けてきた敵がいたが、出てきた瞬間キリコに切り捨てられた。
「このまま階段を下るぞ!」
「待て!!陣トラップだ!!」
「!?」
後方からの声に反応してキリコとサズが慌てて止まる。全体がトラップに引っ掛かる前に止まれたのは運が良かった。
何処だと探してみると天井付近に靄のようなものが掛かっており、そこを注視してみると魔方陣が描かれていた。オレは何の魔方陣か分からなかったが、周りの人達が「うわぁ…」と声を漏らす辺りよろしくないモノのようだ。
「捕縛系とか…」
「誰か解除か上書き出来る人は?」
「自分出来ます!そこから動かないように!」
後方からフード姿の緑の髪をした青年が急いでやって来た。手には1m半程の捻れ樹の杖、そしてウサギのようなリスのような、不思議な小動物が肩に乗っかっていた。
「君はもしやギリスの?」
「はい、シラギクのパーティーのニックと言います。危ないので少し下がってください」
言われた通り少し下がるとニックは懐から掌ほどの長さはある太い針の様な物を二つ取り出す。何の変鉄もない針のように見えるが、その針の後ろの方は黒く塗られていた。そしてニックはそれらを魔方陣に向かって投げた。
(杖は使わないんだ…)
ギリス=魔法使いの方程式が出来上がっていたオレとしてはちょっと杖から出る魔法にワクワクしていたので少し残念。とか思っていたのだが、次の光景でその評価は引っくり返った。
針が魔方陣に突き刺さった瞬間、その針を中心に黒い蜘蛛の巣が広がり、一瞬紫色に輝くと針が破裂した。
「!?、!?」
「あれマクイ木墨か?初めて見たわ」
サズが感心したように言う。
マクイ木って確か魔力吸収する木だったよな。
その木墨って事だろうか。でも何で爆発したの。
「陣魔法破壊しました。これで進めます」
「助かった!礼を言う!」
「こういうときにウェズオーの魔術師がいると助かるわね!」
口々に礼を言い、今後また魔方陣の罠があるといけないので魔術師ニックも先頭集団に加えて先に進む。階段を降りた所で、隠れていたらしい賊の集団に出くわし少し乱闘になったが、元々逃げ腰だった連中は動きが鈍く、オレでも普通に勝てるほどだった。
「あ!あれだ!」
そして遂に通路の突き当たりにそれらしき扉を見つけた。
重く、頑丈そうな鉄の扉には小窓があり、そこから中が覗き見れるようになっている。万が一の場合もあるのでキリコが短剣を鏡代わりにして見てみるが、中は薄暗くよく見えない。しかし、人の気配はするので誰かいるのは確かだった。
「中に人はいるが薄暗くて見えない。あんた、話し掛けてやって。村の人なら名前と声でわかるはずよ」
キリコに言われ、レーニォが扉に近付き声を掛けた。
「おい!大丈夫か!?俺はレーニォや!ハンター達が協力してくれて助けに来たんや!!誰かおるんやったら返事してくれ!!」
耳を済ましているサズがキリコに向けて軽く頷きながらピースの親指を曲げない状態のを横に倒す合図をする。
あれは中から金属の音がしている合図だ。
チラリとこちらを見るキリコの意図が分かり、扉の前でソワソワしているレーニォの服を掴んで無理矢理引き寄せた。
「え?なんっ!?」
「しっ!」
アウソがトゥンファーを構え、オレもレーニォを後ろに引きながら短剣を構える。意味のわかっていないレーニォに小声で中から声ではなく金属の音がした。それに金属の音といっても鎖などではない、剣を鞘から抜く音の合図だった。と伝えるとレーニォも慌てて剣を構えた。
キリコが扉の正面の少し離れた所に待機し、サズが扉の影に待機。
サズがドアノブを掴み、開ける。
「オルァ!!」
中から剣を振りかぶった賊が飛び出してきた。しかし、キリコは少し離れた所に待機していた為に剣は空振り、困惑した賊が再び襲い掛かろうとした瞬間扉の影にいたサズの斧によって首が撥(は)ね飛ばされた。
首が無くなり力を失って膝から崩れ落ちた賊の胸元を掴み盾にしたキリコが銃を構えて突撃し、続いてサズが突撃。悲鳴と銃声が鳴り響き、しばらくしてキリコがひょっこり顔を出した。
「もう制圧完了したから入って良いわよ」
中に入ると左右に牢屋、奥の方に賊の死体が転がっていた。あ、と声を上げたレーニォが格子にしがみついた。
「おい!お前ら大丈夫か!?今出してやる!」
そう言うが、格子向こう側にいる村の人達から何故か返事がなく、レーニォがいるのに格子に近付こうともしない。
いや、口は動いているのだが声が聞こえない。
(なんだ?)
「うわっ!?いって、なんだこの格子。セート石ででも出来てんのか!?かってぇ!!」
ハンターも面々が格子に攻撃を入れるが、相当硬い素材出てきているのか武器は弾き返されていた。
「くっそ、誰が鍵持ってるんさ」
そしてアウソは賊の身ぐるみを剥いで鍵を捜していた。
「!」
なんとなく牢屋を隅々まで見てみると天井付近にモヤが見える。それにモヤに混じってパチパチとした小さな光が混じっていた。
「ニックさん、あれ」
近くでアウソと同じく身ぐるみを剥いでいたニックの背をトントンと軽く叩き、天井を指差す。
「あれは、エレットニックとサイレンツの……ちょっと待っててください」
ニックが立ち上がり、杖の先端を魔方陣に向かって構える。
パシッと軽い音と共に杖から光が飛び出しモヤに隠れていた魔方陣に当たると光が波紋のように部屋一面に広がり、ガラスが砕けたような音がしたかと思えば魔方陣が消えていた。
「無理なんや!ここに鍵なんてあらへん!格子にも近付けへんのや!」
「…声が…!?、いや鍵が無いのか!なんでや!?」
魔方陣が消えると村の人達の声が聞こえ始めた。音消しの魔方陣だったのか。いや、エレットニックって単語もあるから、別のやつも混ざってんのかも。エレットニック…エレクトニック?電気系か?
音が戻った事にしばし驚くハンター達だが、鍵が無いという事実に軽く舌打ちした。訊くと、どうも今不在の人間が持っているらしく、万が一がないように予備もないという。
牢屋は開かない。壊そうとしても頑丈すぎて壊せない。
恨めしそうに鍵穴を見詰めるキリコとサズの前にレーニォが冷静に立ち上がった。
「鍵が無いか、そか。せやけどな鍵穴はあるんや」
レーニォが上着の内ポケットから針金と何やら色んな形の小さい工具をたくさん取り出した。
「そんなんで諦めてたまるか!旅芸団(ヒターノィ)出身舐めんなや!こんな鍵くらい開けてやるで!」
「レーニォ…」
「鍵開けできるのか、よし!俺らが守ってやるからとっとと開けて助けれやれ!」
「はいっ!」
レーニォが工具を鍵穴に慎重に入れ、鍵開け作業を開始した。相当集中しているのか、額に汗をかいている。
作業を邪魔されないように外の見張りをしようとすると服を軽く引っ張られた。
「ニックさん?」
振り返るとそこに居たのは真剣な表情をしたニックで、こちらに来いと手招きをしている。
なんだと近付くと胸元を掴まれて引寄せられた。
「おい、お前何てもん纏わりつかせてんだ」
「は?」
「肩のソレだよ、わかんだろ。良いか?何が目的か知らんが“俺らに害がある”と判断すれば即座に消し炭にしてやるからな、分かったな!」
「……はい」
なんかよくわからんが頷いといた。
(ていうかニックさん性格変わってない?)
胸元から手を外したニックはオレから離れ、部屋をあちらこちら睨み付けるように見回し始めていた。
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