第53話 『ゾク』

見失うギリギリで、猫が急に曲がりとある路地へと突撃。


「なんだこのガト!」


「やばい!!」


聞こえてきた男性の声に、猫が何かやらかしたのかと慌てて路地へと猫に続いて飛び込んだら、少し奥の方、あまり人気の無い所でがらの悪い男三人に村人であろう女性が拘束されていた。


「!」


で、追い掛けてた猫だが…。


「!!?」


その男達に向かって襲い掛かっており、その内の一人の男が猫に向かって剣を降り下ろそうとしているところだった。


「猫ぉおおおおおお!!!」


あまりにも突然で、時間もなく、気も動転していた事もあって、気が付いたら剣を降り下ろし掛けてた男の顔面に飛び蹴りを食らわせていた。


「!?、なんっ、がはっ!!」


吹っ飛ぶ男(A)。


それを唖然とした表情で見ている男(B)と男(C)と女性。


男はそのまま地面を転がり動かなくなった。

あれ、死んでないよね。大丈夫だよね。


きっと良いところに入って気絶してくれたんだ。会心の一撃状態だと自分に言い聞かせながら猫を回収してフードの中へ仕舞う。

というか突然男が吹っ飛んだのに吃驚して猫自らオレの腕の中に飛び込んできてくれた。最近猫がデレてきて凄く嬉しいです。


「て…てめえ!!なにしやがる!!」


いち早く我に返った男(C)が怒鳴ってきた。

目尻ががこれでもかとつり上がり、眉毛が思い切りハの字で眉間にシワが刻まれている。


「………」


なんだろうか。

先にリーオの恐ろしい顔を拝んでいた為か全然怖くない。


そうだ。確認しないといけないことがあった。

布で猿轡されて男(B)に後ろ手に拘束されている女性の方を向く。


「肯定(こうてい)なら頭を縦に振って、否定(ひてい)なら横に振って。この人達知り合いですか?」


女性が頭を横に振る。

良かった。知り合いだったらどうしようかと思った。特に飛び蹴り入れた方。


「貴女は拐(さら)われ掛けてる?」


女性が凄い早さで頷く。

誘拐事案発生確定である。


「無視してんじゃねーぞ!てめえ!!」


「うわっ!!」


男(C)が剣を取りだしいきなり斬りかかってきた。しかしここ最近毎日のようにスピード重視のマヌムンと修行と称して戦いまくっていたお陰なのか男の攻撃が遅く感じる。


「くそっ!このっ!避けんな!!」


「む!り!で!す!」


攻撃が一応目で追えるスピードであるため、あとはひたすら避けるのに専念するだけである。

ちなみに受け流すとかの高等技術が使えないのでコマンドが【避ける】一択なのは認める。


ここ最近回避技術がうなぎ登りしていて助かった。


何せ遭遇するマヌムンの七割が爪や牙や触手の刺に毒持ちであったため触れたらアウト!のものばかりだったから。


実際カリアが野山に棲むマヌムンが毒持ちが多いと言っていたので対処策を伺ったら『なに、どんな攻撃でも当たらなければどうってこと無いよ!』との実にシンプルなアドバイスしかくれなかったのでオレは回避特化型になるつもりでひたすら避けまくって技術を上げていた。


(といってもスタミナがあまり無いからな、早く来てアウソさーん!!)


内心ビビりつつ必死に避けながらアウソの到着を祈っていると、視界の端に細長い影か凄い勢いで飛んでくるのが分かった。


そしてそれはオレと対峙している方の男(C)ではなく、女性を人質に取っている男(B)の米神(コメカミ)に見事突き刺さった。


「ごっ!?」


「!!、ンーーー!!」


男(B)が白目を向いて横へ倒れる。

それを好機と見た女性が拘束されていた腕を振りほどいて素早く逃げ出し、それを見た男(C)が盛大に舌打ちをした。


「ライハ!」


後方からアウソの声。

これで安心だと、少し思ってしまったのがいけなかった。


「俺を舐めすぎだ!!」


「いっ!?」


視界から男(C)の姿が消え、次の瞬間脚に鈍痛が走り、世界が横に傾く。

足払いされたと思ったときには男(C)が立ち上がり、身動きを取れないように左肩を踏みつけられていた。


「やば…」


手慣れているのかそこまで強く踏みつけていないのに少し動くだけでも激痛が走り、無理に動かそうもんなら肩関節が外れかねない。


「お前のせいで面倒な事になったからな。苦しんで、死ね!」


振り上げられた剣先が喉元に迫る。


ヤバイ死ぬかもしれんと、でも死んでたまるかと拘束されてない方の右手を剣の起動を逸らすために突き出した。


「フギャアアオ!!!」


「ぶ、わ!こいつッ!!」


右手に衝撃が走ったことよりも目の前の光景に驚いた。


激怒した猫が男の顔面に張り付き爪を立て噛み付いていた。猫の毛は尻尾までぶわりと逆立ち、時おり聞こえる恐ろしい声がどんだけ猫が激怒しているのかが分かり凄く感動した。が、ふと冷静に考えてみたらフードに猫を入れてたので、倒された拍子に猫も地面に激突したので怒っている可能性が出てきた。


(まぁ、どっちでも助かったけど)


猫が男の顔面に張り付いてくれたおかげで剣の軌道が逸れ、さらにオレの手とぶつかった結果剣先が顔のすぐ横の地面に突き刺さっている。危機一髪だ。


「ちっ、獣の分際で!!」


「ギッ!」


キレた男が猫を横から殴り飛ばす。

猫は悲鳴のような声を上げて地面へと叩き付けられた。


その瞬間、ざわりとした何かが背筋を這い上がる。


「てめっ…!」


肩の痛みも一気に遠退き、感じたこともない感覚が体の奥底から沸き上がり意識が男へと集中する。


「手前(ヤー)!退け!!」


しかし、その前に追い付いたアウソの右手が男の顔面へと放たれ、その衝撃でよろけたのか左肩を踏みつけていた足が退けられた。


その瞬間素早く起き上がり、殴られた箇所を押さえてふらついている男の脇腹へと向けて怒りのすべてを込めた蹴りをぶち込んだ。


男は体をくの字にして吹っ飛びゴロゴロ転がって壁にぶつかって止まる。


「猫!!」


オレは男の意識があるかないかを確かめる前に地面に叩き付けられた猫を確認しにいった。


猫は目を瞑り、叩き付けられた体勢でピクリとも動かない。


「お、おい…、まさか……」


死んでしまったのか。


側にしゃがみ恐る恐る猫の体を優しく揺すってみる。


「……………グルルル…」


すると猫は目を開き半分だけ起き上がると殴られた箇所を舐め始めた。生きてて良かった。


真剣にグルーミングをしていたので、猫は落ち着くまでそっとしておくことにした。


「ネコどうだったさ?」


「無事ではないけど大丈夫そうだったよ」


「そっか。じゃあ次はお前の右手の手当てをしねーとな」


「右手?」


見てみると、掌が小指側から親指側に掛けて横にスッパリと切られていて、今でもその切られた所から血がだらだらと溢れていた。


「は!!?え!?なにこれ!!」


「うそお前、気付いてんかったば」


「いやなんか、確かになんとなく手が痛い気がしていたけどまさかこんなスッパリと…」


なんでこんな所が切れてんだと思ったところで先ほど右手で剣の軌道を逸らしたことを思い出した。ついでに左肩も痛い。脱臼はしていないが変な痛みが押し寄せてくる。


「…あ、これやばい痛い、マジ痛いほんとに痛い、痛い痛い痛い痛い」


傷を認識すると痛みが増していくような気がして思わず痛いを連呼。


「とりあえず前に貰ったヨモギナの薬擦り込んどけ、殺菌効果があるから膿んだりしないはずさ。あ、一応染みるからそこは男なら耐えろ」




アウソに言われた通りシルカで貰ったヨモギナの薬を傷に擦り込みながら痛みに耐える。ものすっごく痛い。

だけど酷く膿んだりしたら下手したら手首切断の可能性があるので、それに比べればと思えば耐えられた。


ちなみに肩はどうすることもできないので放置した。

だって耐える以外どうすることもできない。


「これでよし」


そしてアウソは気絶した男三人を後ろ手に手首と親指の付け根と人差し指の半ばを紐で硬く縛り、足首もしっかりと固定していた。ついでに男は一纏めに紐で繋がれていたので逃亡防止もバッチリである。


万が一にと貰っていた包帯で傷を覆いながら巻き、後はカリア達に診て貰おう。

早々に手当てを済ませてアウソを手伝った。


「うっわぁ、良かったさ、これ出されんで…」


「これ出されてたらオレやばかったね」


男達の懐を武器没収の為に探っていると、最初に倒した男の上着の裏から魔銃(まじゅう)が出てきた。


しかもしっかり銃弾に魔陣印(まじんいん)が彫られているのが3つ見付かった。


魔陣印とはあちらの魔法陣とほぼ同じものだが(使い方で呼び分けをしているだけで)、とある紋様に魔力を注ぎ込むと陣が反応して魔法を発生させるものだ。種類は様々で、基本属性や付属属性は勿論だが、組み合わせで発生する特殊な属性もあるらしく、それも恐ろしい事に地域や宗教によって違うらしい。


といってもカリアもキリコも魔法が使えないのでそんなに詳しくなく、なんとなく勘で扱っているとか。


唯一アウソは興味で調べたので少しなら分かるという。


ちなみに魔銃と銃の違いはそこまでない。魔力の元である魔水晶(コア)を装填出来るのが魔銃という奴等もいるけれども、ぶっちゃければただの銃でも魔陣印付きの銃弾に持ち手が魔力を魔水晶(コア)の代わりに注入すれば魔銃扱いとなるのだ。


「何の陣印?」


「二つは多分…《火》のかな。最後のは何だ。分からん」


「じゃあそれも没収と」


黙々と没収作業に耽っていたら何やら大勢の足音が聞こえてくる。

猫を回収しつつアウソと警戒していると、なんとカリアとキリコが上から降ってきた。


「あら、なんだもう片付けた後だったの?」


「どっから降ってきたんすか…。屋根か、屋根からすか」


「屋根からよ」


残念そうなキリコ。

それとは対照的にカリアは周りの状況を見渡し何かを確認すると指笛を一つ。


すると通路向こうから指笛が二つ返ってきて、武器を持った村人達が姿を現した。

そしてその中に見覚えのある顔が一つ。


「あ!」


「無事…でしたか」


拘束されていた女性がいた。

どうやら人を呼んできてくれたらしい。


「あんた手どうしたの」


「ん?ほんとよ。どうした?」


「…えーと、これはですね。その…ちょっとやらかしました」


「剣の軌道をずらす為の尊い犠牲さ」


「素手でやったの?バカねぇー」


早々に見付かった手の怪我で弄られながら、いままであった事をあらかた話終えると、カリアが納得したような顔で良くやったと誉めてくれた。


「実はこっちも聞き込みをしてて、村人が何人か拐われた話を聞いたんよ。で、村に駐在しているハンターを捕まえて、奴等の居場所を突き止めたら襲撃を掛けるところだった。良かった。こっちは賊(ぞく)を捕まえることが出来んかったから」


「お手柄よ。これでアジトを割らせることができるわ」


ゾクって、盗賊の事だったのかと今更だけど理解した。


その後、集まった村人達にも女性も交えて説明するともともと怒気を孕(はら)んでた空気が一気に殺気に満ち、何人かは捕まえた賊に向かって武器を振りかぶり叩き殺そうとしたのを別の村人が数人がかりで止めるということが起きる。


武器を振りかぶった人達は身内を拐われた人達だった。


しかし此処で殺してしまってはアジトを突き止めて拐われた人達を助け出せないから少しだけ待てと説得すると渋々武器を下ろしてくれた。


「取り敢えず、何処か閉じ込めて置くところに運ぼう。尋問はそれからよ」

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