第46話 離別願い

ルツァ討伐の為に出撃したハンターパーティー5つ。総員数30名。内重軽傷者23名。幸いにも死者はいなかったが、見た感じ半分以上がズタボロだった。


ちなみにカリアとキリコだが、パッと見あちこちに血が付着していてどこか怪我したのかと焦ったが、聞くと返り血や仲間を救出した際に付いた血で自身は怪我などしていないらしい。


「何年危険高ランク相手にしてると思ってるの、あんなんで怪我しないわよ」


とのこと。

あんなんで、とか、どんなか知らんが二人が強いことは予想できた。

そしてオレの後ろにさりげなく隠れていたアウソであったが呆気なく見付かりカリアに指差しで爆笑された。


「あはははは!!なにアウソ怪我してるかよ!起爆猿にやられて?あはははは!!」


「うっわ、しかも練習棒折ってるわ。明日からの鍛練2倍ね」


包帯巻かれた腕をつつかれ、真っ二つの棒の断面を見て二人がニヤニヤしている。可哀想に、鍛練2倍の言葉を聞いてアウソはあからさまに血の気を無くしていた。


「他人事じゃないわよ、あんたも明日から鍛練参加だからね」


「へ?」


キリコの言葉に思わず変な声が出る。


「オレも鍛練参加?なんでですか?」


「ああ、もう動いて良いって医者に聞いたよ。仮にも弟子だからせめてちょっとしたマヌムンくらいは倒せるようにならんとね」


「ここいらでちょっと変なモノが出ているみたいだから」


キリコがハンターが固まっている場所をみる。そこにはルツァ討伐のパーティーとその他が集まり意見交換をしていた。


軽く聞き耳してみるとルツァの発生率がおかしいだの、マヌムンの亜種が出てるだの、それぞれの戦闘報告討伐方法を報告していた。その中心ではギルド長が難しい顔をして報告を聞いている。


「ギルド長、こ…私も報告していいかよ?」


「ああ、頼む」


カリアとキリコがその輪に加わる。大人しく話を聞いていたギルド長が顔を上げこちらを向いて手招き。


「そっちの棒の兄ちゃんと黒髪の兄ちゃんもこっち来て報告してくれや」


厳つい人達もこっちに来いと場所を開ける。アウソとそこへ加わり報告を聞いた。


カリア達は5種のルツァを相手にしたという。内2種は角蹄種で雷山羊(レランパゴ・ペスニャ)に1種は地鳥種の鋼鶏(ピコ・ライオ)最後は狼種の大牙狼(ロポ・コルミリョ)が居たらしい。

途中で居なくなったルツァ2頭のうち1頭、ルツァではなかったが、宿前に出現した猿種のあの起爆猿(テレモト・モノ)で間違いなかった。


「え!?あれ大角猿(クルエノ・モノ)じゃなかったん!?」


もっとも、あの風体からして皆して大角猿(クルエノ・モノ)と勘違いしていたらしいが。


「ありえへんわー。あないなデカイ図体して爆発されたらたまったもんやないわぁ」


「やろ?棒の兄ちゃんが爆発するって言ってくれてへんかったらウチらもあんな被害じゃ済まへんかってん。な?」


「せやなー。そういや黒髪の兄ちゃんも凄かったんやで、テレモト・モノにペタ~張り付いてな最後はあの猿、自分で自分を爆発させよったんや!ウケるやろ!」


「なんやその戦い方!新しいな!」


まぁ、普通に戦える人はそんな発想はしないと思うからな。


そして話は徐々に脱線し、そのうち面白い方法でマヌムンを倒した武勇伝が飛び交うようになっていく。


そんな中、ギルド長がカリアを手招きしている。なんだろうと見ていれば、ボソボソなにかをカリアの耳元に話し掛けカリアが真剣な顔で頷いていた。


夜も更け、脱線した話を戻しては再度脱線しつつ話し合いは纏まった。


聞きに徹していたギルド長が立ち上がり机を机に置いてある丸石で二回軽く叩く。コンコンと軽い音がよく響き、ハンター達は口を閉ざしてギルド長を見た。


「実はの、3日前北西のミルカでも同じことがあったらしいんや。もっとも此処よりはルツァの数は3頭と少なかったが、昨日、すぐ近くのキクカでも5頭の目撃情報が出とった。そして、今日このシルカへと現れた。ルツァやマヌムンの亜種が何故こんなにも人のいる所へ現れたのか原因は分からんが、数を増やしながら人を襲っておるのは事実や。こいつらはマクツの森から来てんのか、それともドラーコォスト方面か…。何にせよサグラマへの本ギルドへ知らせんといかん」


「……俺達はいけんな」


「こっちも無理や。てか、今の時期サグラマに行くとか」


重い空気が漂う。

誰もが顔を下にし、ギルド長と視線が合うのを避けている。そこまでそのサグラマに行くのは大変なのか。


「せやかてギルド長。俺達ギルド関係者は村の移動は制限されとる。こんな辺境じゃサグラマまで伝送する為の魔法具使える奴も居ない、虎梟だってこの時期じゃサグラマまで無事届くか分からんのに、どうするんすか」


「心配せんでもええ」


「?」


ギルドの職員であるらしい兄ちゃんが首を傾ける。


「そこのカリア・トルゴが行ってくれる」


「!!」


ざわつくハンター達、その顔は喜びに満ちていた。


「ええ!?いいんすか!?」


「あのめんどくさい本ギルド行ってくれるとは、ほんまに有り難いわぁ」


「まぁ、そこ経由して行くとこあるから、ついでよ。ついで」


どうやらサグラマの本ギルドはめんどくさい所ということが判明。まさかそれだけで行くのを渋っていたのか?

どういうことかをアウソに伺えば行けば分かるとだけ言われてしまったので、オレの中でサグラマの印象がよろしくないものになってしまった。


「ま、そんかわりこれは一杯貰うよ!」


カリアが親指と人差し指で輪を作りながら凄く良い笑顔をしたので、オレ含めここにいるハンター達が一瞬にしてカリアがめんどくさいといわれるサグラマ本ギルドへ行くと言い出した理由が判明し、あちらこちらから「ああ…」という声が聞こえた。


その後に続く言葉は皆同じだろう。


(金か…)








夜も更け、ハンター達が酒盛りを始めたのでカリア率いるオレ達は上の宿、オレの部屋ではなくさらに上の階のカリア達の部屋へと避難した。


「さあって、明日の予定だけど」


ベッドに腰掛けたカリアがお酒を片手に言う。


「ライハも動けるようになったし、ちょっとした仕事も出来たからそろそろ出発しようと思うんよ。まぁ元々いつでも動けるようにはしてたんだけど」


「俺の練習棒直してないんだけど」


「槍使えば良いじゃない。練習棒ならまた作ればいいし」


聞くとあの練習棒は移動の途中でその辺で折った太い枝を削って作ったものだったが、今回の練習棒はとても使いやすかったからアウソは内心落ち込んでいた。しかし、練習棒はあくまでも練習棒。キリコにバッサリと言われて仕方なく頷いた。


「あの、ちょっと質問なんですけど」


「なに?」


「サグラマってどっちの方向ですか?」


懐から地図を取り出し広げるとそこにはこのマテラ国の大まかな地形が描かれていた。


このマテラ国は東西に長く伸びる国で、西を深い森(マクツの森)、北西には小さな国がちょこちょことあり、東には華宝国(カホウ)、南南東にアウソさんの故郷龍郷国(ルキオ)。そして北北西には山ノ都国(ヤマノト)、北と南には海があった。


「地図じゃない。どうしたの?これ」


「ギルド長が貸してくれました。で、えーと、確かこのシルカ村はここ…ですよね?」


マテラ国の遥か西の森に接する所を指差すと、カリアさんが頷き、カリアさんの指がそこから東へまっすぐ、山も森も抜け、いくつも村を抜けた先の少し大きな盆地を指す。


「で、サグラマがここよ。駿馬で約半月、普通に歩いて一月半。私達は村を経由しないから大体一月程ね」


見た感じ国半分横断じゃないか。


しばし考える。

ウズルマ遠征からどれくらい経ったのか分からないが気付いたら遠く離れたマテラへと来ていた。その間の記憶はないし、かと言ってもこのままホールデン側に何の連絡も無しにフラフラしているのはどうかと思う。


どうしよう、前に言ってたはぐれ勇者の悲惨な末路的なものも気になるけど、できるだけはやくホールデンに戻りたいのにこのままだと戻るどころか遠ざかっていく。

助けてもらった恩だとか、人身売買連中から守ってくれたのは感謝しているけど…、仕方がない。


「………あの、オレせっかく弟子にして頂いたのに申し訳無いんですが…、弟子止めさせて貰ってもいいですか?」


スッとカリアの目が細くなる。


「理由は?」


怖い。

キリコもアウソもこちらを向いて言葉を待っている。ゴクンと唾を呑み込み口を開く。


「オレ、ホールデンに戻らなくちゃいけないんです。多分、黙って居なくなってしまったので心配させてしまっていると思うんです」


誰が?と心の中の声が言う。

誰が心配している?


頭の中にはウロの姿。そしてウコヨとサコネ。ソロ隊長は訓練来なくなったと思っているか。


ザザッと一瞬脳内に変なノイズが混じり、知らない光景が割り込んできた。誰かの後に続いて森を突き進んでいる。転びそうになりながらも、オレと誰かは止まらず進む。

場面が突然切り替わり、見えたのは箱。

誰かはそれをこちらへと向けていて…。


「っ…」


ツキン。軽く頭が痛む。


「ライハ?」


「いえ、なんでもありません…。なので、早くホールデンへ戻らないといけないんです。助けてくれたお礼にお金は持ってませんが、これ、差し上げます」


戻らないといけない。

早く戻らないと、何故か大変なことになりそうな気がする。


腰のベルトから黒い木刀とポーチから氷雹石を差し出すが、カリアにそんなのは要らんと突き返されてしまう。


「ふむ」


カリアが腕を組み、上を向く。

何か考えているのか。


「そうね、こっちは無理に引き留める理由は特に無いね」


「!、カリアさん!?」


アウソが声を上げる。しかし、キリコが目配せして立ち上がり掛けたアウソを制した。

大きく息を吸い、カリアがこちらを向いた。


「で、でだ。お前は今ここで別れてどうする?どう行動する?」


「…西へ行きます。マクツの森を避けながら西へ」


「そう。ちなみに北西の状況を知って言ってると思っていいんよね?」


一応さっき他のハンター達から聞いて知ってる。

北西の国々は今戦争中らしい。

100年近く続いている戦争で、その周辺の国々は荒れているとか。


「…知ってます」


「ふーん、なるほど。それでも行きたいと」


「はい」


「分かった」


膝を叩きカリアが立ち上がる。

そしてニヤリと笑う。


「ただし条件がある」


「!」


カリアが近付き、すぐ目の前に立ち見下ろしてくる。カリアは背が高い。おかげで背筋を伸ばし見上げる体制になっている。


「条件って、なんですか」


「なに、簡単な事」


カリアの手が肩に乗る、大して力も入っていないのにそれだけで動けなくなってしまった。



「私と手合わせするだけよ」

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