第21話 勇者集合

あまり行ったことの無い広場に連れていかれた。城の一階ではあるが、神聖魔力が濃い所があって近付きたくなかったところだ。


気持ち悪くないのかって?

我慢してるに決まってんじゃん。

冷や汗ダラダラだよ。


逃げ出したい気持ちを『南無阿弥陀仏(ナムアミダブツ)』と無我夢中で心のなかで繰り返し叫ぶように反芻しながら押し堪え、何とか残った理性で広場を観察した。


「うおー、凄いゴツい…」


広場の装飾の事である。

その広場の装飾は繊細と言うよりも荒々しく武骨な印象であるので、武闘場とか、そんな戦闘シーンで使われそうな感じだ。


そこに上品な服を纏っている男性が居た。


赤紫の髪にすらりとした体躯。

髪の色からしてこの人が“スイさん”だろう。


スイがこちらに気が付くと軽く頭を下げてやって来る。


「ライハ様ですね、お初にお目にかかります。勇者指導長のスイと申します。ライハ様のお噂はかねがね…」


にこりと笑うスイはムキムキではないがなんとなくソロ隊長に似ている。

恐らくこの人も怒れば鬼のような形相になるに違いない。一見優しそうな顔ではあるが顔のパーツ全てがソロ隊長と同じだ。多分ソロ隊長を利発そうにしたのがスイさんだろう。


「噂って、どんな噂ですかね…」


「風の勇者と一騎討ちで尻餅を着かせた凄いやつだと。あと兵士にまじり一緒に訓練する良い青年とも聞いております」


「風の勇者って…、ああ、あいつか」


頭のなかにシンゴが浮かんだ。

確かに風の魔法を放ってたな。竜巻みたいなやつ。


「今回勇者五人で魔物討伐の訓練をしようと思っておりまして、もちろん現在のライハ様の状態も承知しております。なので今回は比較的強くない魔物を五人でボコ殴りにするという作戦にてライハ様にも魔物の耐性を付けていただこうと思っております」


「……、はい」


ボコ殴りにするという作戦…。この発想でやっぱりソロ隊長の身内なのだと実感した。


「でもオレまともな武器持っていませんけど、大丈夫でしょうか?」


腰に差しているのは木剣のみである。


「心配ありません。こちらで神聖魔法を掛けていない剣を一振り用意しています」


スイが指を鳴らすと最初にオレの部屋を訪ねてきたメイドが長細い包みを持って現れた。それを手渡される。


ズシリと重いそれはいつぞやユイから借りた鍛練用の剣程はある。

大丈夫かな、これ。オレちゃんと振れるか?


「結構重みがあるんですね」


「ライハ様には魔法がことごとく反転される呪いが掛けられていると聞きましたので、軽量化の為の魔法が掛けられなかったのです。なのでライハ様の剣は本来の重さのままとなっています」


「軽量化の魔法…、そんなのもあるのか」


布製の包みを開けると勇者の剣程ではないがそれなりに立派な得物が入っていた。試しに抜いてみると両刃の剣で、柄の部分には滑り止め程ではあるが装飾が彫られている。


試しに振るってみて何とか振れる事を確認。日々鍛練していて良かった。


再び鞘に納めたところで扉の方から物音が近付いてきた。複数の足音と布の擦れる音。それに混じって聞き覚えのある声が聞こえた。


あの中二勇者だ…。


勢いよく開かれた扉の向こうからカラフルな四人の人物がやって来た。服装は違えど忘れられないあの髪色、見覚えのある四人がこちらに気付いた。


「あ、アマツ君じゃないか」


ユイがいつものように片手を挙げて挨拶。


「あー!!お前っ!!」


その隣でシンゴがこちらを指さし大声をあげる。指をさすな、指を。


その声を煩そうに耳を手で塞ぐノノハラに、大声で吃驚したのか肩を跳ねさせたコノン。


皆高そうな服を纏い、腰に立派な得物を差している。こいつらはオレとは違いちゃんと勇者をしているようだった。


「おい、一般人!」


「!」


いつの間にかシンゴがすぐ目の前にやって来ていた。胸の前で腕を組んで、オレを見て鼻で笑う。


「今回の訓練は出るのかよ、サボリ魔の一般人君!」


なんだこいつは。いきなり喧嘩売ってんのか。


「好きに思えばいいだろ。中二勇者」


「!?」


売り言葉に買い言葉は良くないが、なんか、つい出てきてしまった。しかし、しかしだな。先に言ったのはあいつなのでオレだけ悪いとかはなし。おあいこだ。


「…このっ!!」


そしてまさか言い返されるとは思ってもみなかったのか、顔を真っ赤にしたシンゴが眉をつり上げて掴み掛かる。襟を掴まれ、ご自慢の馬鹿力で吊り上げられた。

服の構造上首は絞まっていないが、足が浮いてる。同じ背丈の人間吊り上げるとかなんなんマジで。


「お止めください。シンゴ様。それにライハ様も。今ここで喧嘩をされては困ります。後にしてください」


シンゴの腕に乗せられたスイの手が下ろすように軽く力を入れた。そこまで強く力を入れているように見えなかったのだが、シンゴの腕が無理矢理下ろされ足が無事に地面へと着く。


「ほら、説明ができないじゃありませんか」


「………わかった」


シンゴの手が服から外れた。

乱れた襟元を正しつつ背中を向けたスイを観察する。スマートだけど、実は結構筋肉付いているのかもしれない。


「アマツ君大丈夫か?」


「大丈夫です」


ユイがやって来て心配そうに声を掛けてきた。小声で助けてやれなくてすまなかったと言われたが、オレも大人げなかったと思う。ユイは気にしないでくださいと返しておいた。


場が落ち着き、スイが一つ咳払いをしたところで勇者達は口を閉ざした。


今回の集令の内容を聞くためだ。


「つい先日、クローズの森で魔物数体が確認されました。いずれもランクは低く、そこまで危険ではないのだがどうも群れを率いているらしいので、今回はそれを討伐します」


スイが説明し、それにノノハラが質問する。


「魔物の種族は?」


「ラオラです」


「ラオラか…」


ラオラは体長1m30cm、全長2mの猪に似た魔物だ。猪と違うのは牙の他に角もあり、背中の毛が高質化して針ネズミみたいになっているところ。北東にあるドルイプチェ国周辺を住みかにしているので、山脈を越えてホールデン国に来るのは珍しい。


「想定される数は?」


「およそ20体。後ろに付けて来ている他の魔物の姿も見えないから戦闘は大規模になることはないと思います。しかし、念には念を入れてください」


わかりましたといってノノハラは下がる。


「魔法とか使うか?」


これはユイ。

ラオラは魔物の中でも弱いから魔法は使わなかったはず。いやまてよ、なんかめんどくさい能力は使えたな。


「魔法は使えませんが“共鳴”といった能力で種族同士で連携攻撃を仕掛けてくるくらいですね」


そうだ、共鳴だ。

前読んだ本にラオラではなかったが共鳴を使われ、一人の冒険者が魔物に袋叩きにされたみたいな事が書いてあった。くわばらくわばら。


「質問は以上ですか?」


スイが見回すが声を上げるものはいない。


「いないみたいですね。それでは準備が整い次第移動を開始します」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る