第10話 例のアレ
「逃がすものですか!!」
「サコネ!まかしたよ!」
「ほいさ!!跳び跳ね喜ぶ、空見上げ羨む、白き白き気高き姿、上る上る偉大な姿、私は君を羨む、願うならば、君と空を飛び眺めてみたい、私は上る君のもと、高く高く上がっていく、《雲海(うんかい)ノ気泡(のきほう)》!!」
「!?」
出口に向けて猛ダッシュしていると、突然体が瞬く間に軽くなり、足先が地面から強制的に離された。
なにこれ!?オレ浮かんでる!?
「うわわわっ!ヤバイ!」
これじゃあ逃げられない、しかも後ろの方でウコヨが来たれウンヌン何とかとブツブツ言ってるし足を懸命に動かしても空中バタ足になってしまっていた。
「そいや!!」
火事場の馬鹿力てきな要領で魔法が強くなっていることを祈りながらサコネに向かって右手を突き出し初期魔法を発動させたが、出たのは冬によく出る静電気。
まじで使えない。
「ーー君をココに召喚する。出でよ《夢喰(ユメクイ)》」
そうこうしてる間にウコヨの魔法が完成し、床に現れた紋様からずるりと紋様が山のように盛り上がり徐々に変化し、いつの間にか角が六つある動物と形を変えていた。角の一対は上に伸び、もう一対は横向きに弧を描き、最後の一対は後ろ向きに円を描きながら伸びていた。パーマのかかった毛は紺と黒のグラデーションが掛かり、全体的にラメをばら蒔いたような模様がある。
「………羊?」
に似た何か。牛のようでもヤギにも見える。
牛ほどの図体に牛の尻尾、羊の体毛にヤギの瞳。あの漢字の『一』見たいな黒目のやつ。
そいつにウコヨが近付いてオレを指差した。
「夢喰、あの浮かんでる人に夢を見せてやって」
ヴェェェと夢喰が啼いて黄緑色の瞳がオレ捉えると同時に羊モドキの方からキラキラした空気の塊が襲い掛かってきた。空気の塊がオレを包み込んで体に染み込んでくる、ジワジワと暖かい水が体を満たす感覚で、目がぱっちり覚めた。
「ん?」
「ライハ様、どんな感じですか?」
ウロが訊いてきた。
どんなって言われても。
「凄い目が覚めました。なにこれコーヒーよりも効き目ありますね」
「目が覚めた?」
「夢喰の呪いで目が覚めた?」
双子が驚いた顔をしている。
ちなみに先ほどの羊モドキは煙となって消えていた。
「本来、夢喰の呪いは相手を深い眠りにつかせる呪いなのです。それで目が覚めたということは確実に『反転の呪い』に掛かっている証拠です」
「…まじすか」
てか、良かった…。反転の呪いじゃなかったらどうなってたことやら。
耳元でパチパチ何かがはぜる音が聞こえ始め、浮かんでいた体が重力に従い落下した。今度はちゃんと見えていたし、高度も高くなかったために尻餅をつくことなく着地成功。
「しかし困りましたね…」
ウロが顎に指を添えながら唸る。
「こちらで用意している勇者様専用の武器は全て神聖魔法が掛けてあります」
「と、すると」
「着用してると常に大ダメージです」
「それこそ呪いの装備じゃねーか、ふざけんな」
戦う前に天に召されるわ。
「まぁ、呪いの正体と装備が何か分かっただけでも良しと思いましょう。呪いの装備の中には体内に潜り込んでしまったり、ある日突然装備した人を殺す呪いもあるのですから」
「呪いの装備超怖い」
「とりあえず暫くは解呪と、多少の神聖魔法を受けても耐えられるように体力をつけていてください。でないと城内歩いているだけで倒れます」
えっ、歩いているだけで?
「何でですか」
「城自体に神聖魔法の結界を張っていますし、部屋によっては神聖魔法の溜まり場になっている箇所がありますので」
「死ぬ気で鍛えます!」
こうして厄介な呪いが掛かっている事が確定してしまったのだった。
「これが呪いの装備ね…」
部屋に戻って鏡でピアスを見てみるが、やはりちょっとゴツくて格好いいだけの普通のピアスに見える。本当にこれが呪いの装備には見えないな。
「てか、よく考えたら外せば良くね?」
ピアスを外してみようとした。が、ピアスは耳に張り付いたようにびくともしない。外れないタイプのピアスじゃなかったのに、だ。
頭の中にあちらでのゲームでよくある『この装備は呪われていますので外すことは出来ません』の台詞が脳裏をよぎった。
なるほど、確かにこれは呪いの装備だ。
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