第11話 初対戦
それからオレはウロと共に解呪方法を探して色々術を試し、その度に大ダメージを受けて寝込み、空いた時間はひたすら訓練所でストレス解消も含めて走り回るを繰り返した。
てか、完全に他の勇者達に置いていかれている感が半端ない。
ダメージを負ってぐったりしている最中に窓から訓練所を見ていると、他の四人は魔法をガンガン放ち、隊長クラスの兵士とやりあっているのが見えていた。
羨ましい。オレだって雷落としたり地面に流して広範囲攻撃とかしてみたかった。
オレの魔法はいまだに静電気止まりである。
何となく他の勇者達に遭遇するのが嫌なので鍛練の時間をずらして行っていたのだが…。
「よう、一般人A。お前魔法を使えないんだってな」
よりにもよって、あのジャージの中二野郎に見つかってしまった。
「城内の兵士やメイド達が噂していたぜ。今度の勇者の中に勇者のくせして魔法を使えない、戦闘も出来ない、ただ飯喰いの奴がいるって。お前の事だろ?いままで一度もオレと合同訓練で会ったこと無いもんなぁ」
どや顔で言うシンゴに腹が立つが、悔しいことにだいたい当たっているので何も言えない。魔法は使えるが静電気だし、戦闘能力が無いのも呪いせいではあるが、それを言ってもなんだか言い訳じみている気がする。
「…関係ないだろ」
ので、めんどくさいからそう言ってさっさと自室に退散しようとしたのだが、振り返ろうとしたところで右腕を強く掴まれた。凄い力で腕がギリギリと悲鳴をあげている。めちゃくちゃ痛い。
「関係ないだろは無いだろ?僕ら同じ勇者なんだからさ。せっかくだし稽古つけてやるよ」
「いや、オレはーーッ!」
「遠慮すんなよ、勇者仲間だろ?」
(この野郎!!腕折る気か!?)
断ろうとした瞬間腕を掴む力が一気に増し、激痛と小さくミシリと音が聞こえた。これは受けないと折られるだろうな。仕方がない。
「わかった、受けるよ」
不本意だけど、受けることにした。
こんな事で利き腕を折られるわけにはいかない。
「へっへー、じゃあ決まりだな。僕がお前のへたれた根性叩き直してやるよ!僕、お前な今の実力が分かんないからまず最初は試合だな!」
ふざけんな、と言おうとしたのだが再び腕が悲鳴をあげたので言えなかった。問答無用かコノヤロー!!
そのまま広場の真ん中まで引きずられるように連れ出されてようやく腕を解放された。その頃には締め付けられて血が止まっていたのか手の感覚が消えていたらしく、解放された今になって変な痺れが右腕全体を襲っていた。
(しかも力が入んないどころか動かないんですけどどうしてくれるんですかこの野郎!)
プランと肩にぶら下がってるだけの存在に成り果てた右腕を左手で擦って回復を試みたが、どう考えても間に合いそうにない。現にどう見ても両手持ちの木剣をオレに向かって放り投げてきた。
「ほら、お前の木剣だ」
足元に落下した木剣を左手で拾い上げる。やはり両手持ち用の為、やや重い。
「なんだ?どうしたんだあの二人」
「なんか勇者様同士で模擬戦やるんだとよ」
「マジかよ、勇者様達強いからな!今後の戦闘の参考にさせてもらおう!」
わらわらと野次馬が集まってきた。
しかも頼んでもいないのに円上にオレ達を取り囲んで舞台を作り、審判役まで出てきた。本当にやめて!オレ弱いから!参考になんてしなくていいから!
「お前全然鍛練してないみたいだからハンデをやる。オレに一発でも攻撃与えられたらお前の勝ちだ!一般人Aにはこれ以上ないくらいのハンデだろ?」
「一発か」
「一発だ、なんなら二発でも良いぞ!」
素晴らしすぎるどや顔のシンゴが目の前で木剣を軽々と振り回す。風切り音が鋭い、当たれば骨折れそうだな…。
(あれ?オレ腕折られたくないからって受けたのに、これって本末転倒じゃね?)
「あーもう。いーや。頑張ろう」
何でもいいからどうにかして一発当てて部屋に戻ろう。じゃないと解呪の時間に間に合わなくなってしまう。
しかし、どうしよう。
左手で木剣を見よう見まねで構えて、今真剣に逃亡の作戦に頭をフル回転させた。身軽さと脚には一応自信があるが、周りには兵士達で壁が作られていた。前方にいるのは背の高い位の高そうな兵士達、その後方に位の低そうな兵士にさらに後ろに見えないと言いたげな青年兵や少年兵が取り囲んでいる。
「………」
「なにぼさっとしてんだよ、始めんぞ」
シンゴの言葉で前を向く。
シンゴは木剣を中段に構えていた。
さて、頑張るか。
審判が右腕を高くあげ、勢い良く振り下げた。
「始め!!」
一つ瞬きをすると、シンゴはすぐ目の前に迫っていて、次の瞬きの前に反射的に防御に走らせた左手の木剣が上段から振り下ろされた攻撃によって叩き折られ、その流れのままに引かれた木剣が突き出されオレの腹部にめり込んだ。
「…グッ!!」
腹からせり上がる物を無理矢理飲み込んで生理的な涙で滲んだ視界の先で笑うシンゴを見据える。
どうだ?という顔。
そうだな、さすがは勇者様だ。
だが!
「ふんっ!!」
意地で後方に突き出した足が地面を捉え足の裏が地面との摩擦で燃えるように加熱される。
(やっぱりキツいな、だけど、オレに火を着けたぞお前!!)
「おお!あれを堪えた!?」
「さすが勇者様だ!」
「しかし、木剣は…」
頭のフル回転を逃亡作戦から一発痛い目見せてからの逃亡作戦に切り替える。
(正面から行ってもオレの力では力で叩き伏せられるだけだ。ならば、この場を利用する!)
勢いのままに後ろへ跳んで兵士達の中に紛れ込む。実は兵士達と同じ服装だったのと、あまり目立つような装飾も着けていないので溶け込むのは朝飯前だ。
「あ!お前逃げんのか!?卑怯だぞ!!」
円の真ん中でシンゴがわめき散らしているが、無視。通りすがりざまの兵士の手から木剣を抜き取り、砕けた木剣は捨てた。シンゴの左後方まで回り込むと身を低くして突撃を開始した。
「!?、な…っ!」
懐まであと少しというところで気付かれ、シンゴが振り返りながら木剣を横薙ぎした。
しかし、あらかじめ身を低くしていた為に横薙ぎされた木剣が頭上を素通り。うん、剣筋見えなかったし、当たってたら頭スポーンだった。
骨折る気どころか殺す気だよね。
だけど、今ので当てられなかったのが運の尽き。
振り切ったシンゴがしまったという顔をした。あんな本気で振ったら途中で止まれないし、振り切った後の切り返しは難しい。おまけにオレはすでにお前の懐の中だ!
「勇者様!」
「!?」
が、シンゴもそうやすやすと攻撃を受けてやる気はないらしい。
目の前に光の塊が突如出現した。塊は密度が濃く、それでいて光の粒が高速で乱回転をしていた。濃い、濃い、濃密な魔力の塊。
「吹き飛べ、《風乱舞(フウランブ)》」
それが目の前で、弾けた。
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