第26話 残念なお知らせ
チームの結成届はスムーズに受理された。
C2M3、チーム名は勝手に決められていた。クッキー・コーンフィールドとマタとマッサキ・マサキの頭文字だそうである。ロボなので正式な参加者ではなく基本的には武器武装の扱いであるマタをカウントするところが重要なのだろう。
クッキーが満足ならそれでいい。
月暈島総合生活支援センター内のバスターミナルからクッキーの拠点があるという
公共交通機関は、多くの場合で参加者の移動スピードより遅いが、島の一般住民も利用するので狙われにくいメリットがあるらしい。知らなかったが戦闘で生じた人的被害に対してはペナルティがあるそうだ。
「兄さんが新入り狩りにあった都市戦闘訓練エリアなんかは一般住民は立ち入り禁止になっとるし、学園町付近の住人は元参加者ばっかりやからあんまり気にせえへんかったやろうけど、月暈島内には自分の身を自分で守れへん人も大勢おるから考えなしに戦ったらアカンよ?」
バスの到着を待つ間に色々と説明される。
「確かに、ヒーローになったら周辺の被害も計算に入れなきゃいけないだろうしな……」
オレは頷く。
この島に来てからのオレの戦闘は、襲撃を受けるか、決闘を申し込まれるか、こちらから仕掛けたことはなかった。しかし一位の五十鈴と戦うにはそんな要素も考える必要がある。
だとしたら。
「今日中に二位を倒して、五十鈴に決闘を申し込むのが一番確実な方法ってことだな。襲撃はやっぱり邪魔が入るだろうから」
「ムリや」
クッキーはオレの意見を一蹴する。
「無理って」
「そないな方法だれでも思いつくっちゅう話」
簡単に封殺された。
「そうか、今日辺りは二位狙いが熾烈か」
言われてみればその通りだ。
オレが思いつくことを現在の二位が考えない訳がなく、そうなれば守りも強固だろうし、それを狙うライバルも大勢になる。オレ自身も回復が万全でないのに、一位との戦いの前日に全力を出せるかというと微妙かもしれない。
「兄さんの考えてることはわかるけど、それ以上に問題なんは、五十鈴あさまより二位のチームの方が圧倒的に強いことや」
「は?」
クッキーの言葉は意外すぎた。
「二位の方が強い? ならソイツが決闘を申し込んで終わるだろ。オレたちの出番がない」
順位の移動は一日一回。
オレが決闘を受諾したときもそうだったが、すぐに役場の人間が来て、闘技場の控え室に押し込まれたから決闘の前にも襲撃を仕掛ける余地はなさそうだった。
「二位のチームはヒーローになる気がない」
クッキーは言う。
「どういう意味?」
オレにはよくわからない。
「ランキングには参加して、二位のボーナスは受け取っとるけど、一位になって死ぬかもわからんヒーローになる気はないと公言してるんや」
「なんだそれ、なにがしたいんだ」
クッキーの説明にオレは呆れるしかない。
「ヒーローになるのを邪魔してるんや」
「邪魔って、なんのために」
「ウチとは違う意味でヒーローを否定したいんやろ。地球なんか守る気はないそうや。適度に宇宙人に侵略されて、七十億とかいう数を淘汰した中から能力を持った強い人類であるジブンらが生き残ればええらしいわ。いけすかん話やけど」
「とんでもねー」
他に言葉が出なかった。
「合理的と言えば合理的ではある。なんでウチらが地球のために命を張らなアカンのか言われたら、それはそうやなと納得する人間がでるんは当然や。せやから、島で最大のチームであり、最強のチームにもなってくる」
しかしクッキーは冷静に言う。
「……」
そうかもしれないが。
オレだってオヤジの命という個人的動機がなければ、この能力を与えられても地球のために戦ったかどうかはわからない。しかし、ランキングに参加して邪魔までしなくても良くないか。
「邪魔やけど、とりあえずは気にせんでええ相手や。二位を保持してる間は動かへんし、一位の移動が起こるんは立場的に歓迎しとるぐらいやから、こちらから襲撃でもせん限りは戦いにはならん。せやからウチらは五十鈴あさま襲撃だけを考えればええ」
バスがやってきた。
運転手はいない。無人で運行している。
地味にすごい技術だ。
他と同様、ヒロポンで乗れる。
「細かい作戦は拠点に戻ってから。だれが盗み聞きしとるかわからんからな、注意や」
乗車しながらクッキーは言う。
「確かに」
オレは頷いた。
「ところで穂流戸市って?」
「島で一番大きな港があんねん」
乗客のまばらなバスの最後尾に座ってクッキーは言った。オレは隣に座りながら、ヒロポンでバスの時刻表を確認する。ここからだと二時間で到着予定、なかなか遠い。
「港、船の出入りがあるのか」
オレは尋ねる。
「本日は月暈島巡回バスをご利用いただきありがとうございます。このバスは穂流戸行きです。
アナウンスが流れて発車する。
「そらそうや。島の中ですべてを自給自足できる訳やないし、住人の仕事の多くは輸出関連や、穂流戸市は特に地球防衛のための先端的な工業製品を多く作っとる。マタのボディもそのひとつや」
「ああ」
確かに子供の技術で作るもんじゃないな。
「ウチは天才やけど、大量生産に到達してへん機械っちゅうもんにはどうしても職人の技が必要な部分もある。年季はどうにもならん」
「……」
あの家政婦ロボの女の仕草を作った職人。
いい仕事してる。
その技はオレに危険なのでできれば発展させないで欲しいところだ。見た目と言葉がそれなりになったらマタの色ボケ具合が洒落では済まなくなる。あの分析された弱点は間違いなく的確だったと矢野白羽で思い知った。
いきなりキスされたら落ちる。
それくらいオレはちょろい男なのだ。
「兄さん、なんや顔がニヤケてるけど?」
クッキーがからかうように言った。
「え? いや、なんでもない」
まさか。バレバレ?
「ええよ。別に安全なときになにを考えてもな。けど正式にチームメイトになった訳やし、言わせて貰うけど、これからの一年、ウチが一番心配なんは、兄さんの弱点や」
「!?」
図星すぎて言葉が出ない。
「ウチはエラーやと思って真剣に解析してたんやけど、天才の発明っちゅうんは、想定した以上の結果をもたらすもんやとその英明さに改めて驚いくことになった」
「まわりくどく言わなくていいから」
九歳にそんな指摘されてオレが恥ずかしい。
「自覚ありか、ならいくらかええわ」
クッキーはなぜかホッと胸をなで下ろす。
「良くないけど?」
なにも解決してない。
「天才としてどう改善するかのアドバイスぐらいないの? オレとしても真剣になんとかしたいんだよ。その弱点。冗談じゃなくて」
「ムリや」
バッサリだった。
「言ったやろ。それは年季の問題や。天才でもウチは子供、その手のことには応えられん。そして兄さん。さらに残念なお知らせがある」
「なんだよ」
これ以上に残念な話なんてそうないぞ。
「その弱点を具現化した女性がウチの拠点におる。解析の結果、完全な一致に限りなく近くて、運命の相手かもしれん。どないしよう?」
「どないもこないも」
この天才、とんでもないことを言ったぞ。
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