弥生の花は美しい
狐島
第一章 4月7日 憂鬱な朝
ここまで気持ちが重い日はないだろう。
二ヶ月前に送った謝罪のメッセージには、いまだ既読を示すマークはついていない。
「やっぱり嫌われちゃったのかな~。それかもう私のことなんて覚えてないのかも。」
深いため息を一回つきスマホを布団に放り投げた。
「早く着替えて降りてきなさーい。初日から遅刻するわよー。」
こころなしか母親の声が弾んで聞こえた。
「わかってるって、すぐ行くから。」
今日から高校生になった私、相川小百合。第一志望のお嬢様学校の試験に落ち、滑り止めとして受けた地方の高校に進学することになった。幸か不幸か、父の転勤先もこの地だったので、家族そろって東京から引っ越してきのだった。
「本当ならあの学校の制服を着ていたはずなのになぁ。まぁこの制服も悪くないけどね。」
したくを済ませてリビングに向かい、すこし急ぎながら朝食と母の小言を牛乳で流し込み、家を後にした。
初めて制服で歩く通学路は、都会には負けるがそこそこな街並みではあった。人もそんなに歩いていないし、都会みたいにうるさくない。この土地も悪くないかなと思いながらも、小百合の足取りは重かった。
昔から人に話しかけるのは苦手で、さらに知らない土地で友達なんて作れるのか。そんな不安もたしかにある。だがそれ以上に「あのこ」とした約束を果たせなかったこと。これが一番小百合にとってつらいことだった。
ふと我に返りまた景色を眺めながら歩いていると、木々に囲まれた小さな公園を見つけた。
「そういえば、リリィちゃんと初めて会ったのもこんな公園だったなぁ。もう会うことはないのかな。」
小百合は急に泣きそうになったので、ほほを一回たたくと、足早に公園の前を通りすぎていいた。
春の風はどこか暖かくてどこか冷たいものだ。
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