タマシイ彼氏

ちやま式

Prologue

−2018年4月1日−

 「えー、それでは、第51回今週どう乗り切るか会議を始めたいと思いまーす」


「いぇーい、パチパチ」


机の上のスタンドライトの明かりだけが灯る薄暗い部屋に、棒読みで受け答えをしている少年と少女が座っている。少年の方はなんと身体が少し透けている。


「あのさあ柊香(しゅうか)」


「なに?楓(かえで)」


柊香と呼ばれた少女は、持っていた書類から目をあげると、まっすぐ少年を見つめ返す。


「今更なんだけど、この会議必要?」


「黙りゃっさい」


柊香は再び書類に目を下ろし、内容を読み始めた。


「えーっと、今週の予定は、5日に高校の入学式で午前まで。6日は身体測定で午前まで。授業は来週からだね」


「身体測定は6日か…」


「言っとくけど、6日は学校にいるうちは絶対視界は共有してあげないから」


「うっ…」


「変態」


柊香はジト目で楓を睨みつけると、書類を片付け、ベッドメイキングを始めた。


「今日はどうする?ボクの中で寝る?」


「いや、久しぶりに実体化して寝ようかな」


「ん、わかった」


柊香は布団に入ると、そっと楓の手を握った。すーっと、透けていた楓の身体の輪郭がはっきりしてくる。


「実体があるからって、ボクが寝てる間に変なことしないでよ。もし何かしたらもう絶対手なんて繋いであげないから」


「わかってるよ。おやすみ」


「おやすみ…」


10秒とたたないうちに、隣からすぅすぅと寝息が聞こえてきた。


「まったく、魂の分際でボクより先に寝付くなんて生意気だぞ」


楓の方に寝返りを打ち、彼の頬をツンツンとつついた。そして微笑みながらつぶやいた。


「明日もよろしく。ボクの彼氏」


楓のほおを軽く撫でて、柊香も目をつぶった。






 人の恋心は長くても3年で冷めて、アツアツだったカップルの仲はマンネリ化してしまうと、どこかで読んだことがある。いつまでも幸せでいられるカップルは、その3年の間に相手に改めて恋をしているのだとか。だとしたら、かれこれ1年くらい、朝起きるときも、学校にいるときも、家に帰ってからもずっと一緒にいるボクたちはどうなるんだろう。そのうち疎遠になってしまったりするのかな…。こうして一緒に寝たりすることも無くなってしまうのかな…。


どうしたらもう1度恋ができるんだろう………。


教えて、気まぐれな恋の神様。

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