第4話 痛い愛

 あなたに会いたい



「あいたたたたた」



 どうした?



「なんだかね痛い」



 どこが痛い?大丈夫か?



「大丈夫じゃない」



 病院行けよ?



「病院じゃ治らないよ」



 なんだよ?それ。恋の病ってか?



「違うよ。もう両想いでしょ」



 うん



「あなたが好きだから」



 俺も好きだよ



「だから痛い」



 痛いのなんて俺がなんとかしてやるよ



「ありがとう、ねぇだから早く会いにきて」



 いくよ、



「会いたい」



 それで痛むのか?メルヘンだなあ



「笑わないでよ、本当に痛いんだから」



 一応薬も持っていくよ、なんか怖いし



「ありがとう、大好き」





 へっ、こんなもんかなあ。いやあしかし我ながらバカやってるよ。会うのが怖くなった女の代わりに男を見定めてこいなんて。


 おかげですっかり女心がわかるようになっちまった。好きだけど、怖いし痛い。早く会って確かめたいけど今までと違う人だったらどうしよう。怖い、痛い。でも私は外見じゃなくて中身で好きになったんだから、なんて。じゃあなんで俺らに頼むかねぇ。これが金になるんだから世も末だけど。


 お、ずいぶん華奢なやつだなあ。足も細いし、帽子で顔が見えない。1番大事なとこなんだがなあ。少し話して写真を撮って、それを見せてから依頼者に会うかどうか決めてもらう制度だ。



「お兄さんこんにちは」


「あ、こんにちは?」


「怪しいもんじゃないんだ、ちょっと雑誌にのっける写真撮ってて、どうかな?」



 よけいに顔を落としてしまう。シャイボーイ。うん?まさか、こいつ



「人を待ってるので、時間が」


「お兄さん、もしかしてお姉さん?」



 ばっと驚いてこっちを向いた顔はそらまあ可愛くて。ちょっとキリッとはしてるけど、なんともまあ愛らしかった。せっかくだし一枚、と写真を撮らせてもらった。


 もじもじとしていたのが、シャキッとカメラを見つめてくるもんだから、ドキッとしてしまう。シャッターを押す。



「ありがとうー!いいのが撮れたよ、ほらほら」


「あ、ありがとうございます」


「雑誌にのっけるかどうか、改めて決めていいよ?」


「あ、あの、この姿は普段は隠してるんです。だからあの、やっぱりやめてもらってもいいですか?」


「うん、なんか訳ありなのかなあと思ったから別にいいよー、だけど!本当に綺麗!!その気になったらいつでも言ってね」



 俺は名刺を渡す。今では副業の方が稼いでいるが、もちろんそっちの名刺ではない。



「あ、あの!!」


「お、お?どしたの?」


「少し、あの、相談に乗ってもらってもいいですか?」



 そうして2人でカフェに入ることになった。ラインで少し遅れるから、と彼女に伝えるというので、俺は俺でもう少し話をしてみるから、と伝えた。もちろんこっちもラインでやりとり。



「俺、今から人に会うんです。ネットで知り合って仲良くなったんですけど。実は女だってことまだ伝えてなくて、でも彼女が会いたいっていうから、こうして待ち合わせしてて。どんな反応をされるのか怖くて」


「ひとつ、聞いていい?」


「はい」


「彼女が好き?」


「好きです」



 すげーよなあ。今は性別関係ないからなあ。



「向こうはあんたのこと男だと思ってるんだよ?それで女だってわかったら向こうは、」


「いいんです!いやよくないけど、でもやっぱり、いいんですよ。それでダメならやっぱり俺が悪いし」


「早く言っちまえばよかったのに」


「それができたらこんなに悩んでないですよ」



 話したら楽になりました。決意も固まりました。と、やっぱり少し男らしい彼女と別れて俺は連絡を取る。ラインで写真を添付する。




 かっこいい…どうして話長引いたの?ど、どんな人?



「本当に会うか?後悔するかもしれないぞ?」



 かっこいいし、いい人なんでしょ?あと他に何があるの?



「まあ本当に好きなら問題ない、些細なことだから」



 会う、会うわ。




 そうして俺はそれを見守る。ここは別に好きにしていいんだけど、さすがに今回はどうなるのか気になった。


 女にしては背の高い、彼女が近づく。少し遠くて見えないがどうやら可愛いいようだ。お互いにすごく驚く。やっぱわかるよなあ、顔可愛いもん。読唇術なんかはわかんない。だけどやっぱりもめてるようだ。無理だったのかなあ、そらそうだよなあ。


 女が走り去って、男が残る。いや女の子が残る。俺のラインに次々と嘘つき、嘘つきと字が踊る。俺は金は振り込まなくていいよ、とだけ送った。


 俺は、声をかけに言った。



「よ、」


「あ、ああ、見ないでください」


「見ちゃったよ、全部」


「彼女、男だったんです」


「え!?そうなの!?向こうだって嘘つきじゃん」



 泣き顔が可愛い彼女の衝撃の一言に、俺はつっこんでしまった。さらにぐしゃっと綺麗な顔を崩して泣く。



「いい男だと思ったら女だったって。詐欺だ、嘘つきだ!ってだからたまらず俺も言ったんです。女の子だと思ってたのに君だって裏切った。好きだったのに、ずず」



 鼻水をすする。



「それに探偵を雇ってたみたいで、ひっく、会うのを決意した最後のラインも探偵だったって。痛いって会いたいって、大好きって言ったのに、う、嘘つきい」



 俺だよ、それ。あー胸が痛い。とても痛い。


 泣き声が大きすぎて、なだめながらとりあえずバンに連れて行く。もう子どもくらいの勢いで、助手席でうつ伏せになっている。こんなに泣いている女の子見たことなくて、俺のせいでもあるのに少しおかしくなってきた。結構いじめっ子タイプなのかな、俺。



「でもお姉さんが悪いんだよ、騙したんだから」


「む、向こうだって!ひっ、ひっ、」


「そう、お互いに嘘つきだったんだからそんなに悲しむことないんじゃない?」


「だ、だけど、探偵まで、」


「あー、それ俺だよ」


「あ、うそっ、嘘つき!最初声、かけたのも?写真も?そのあとも?」


「ぜーんぶ依頼、今回はお金はさすがに受け取れないけどね」


「もう、誰も信じられないよ」


「嘘つき、絶対いつかまた誰かに気を許して幸せになるよ」


「な、そんなこと!」



 楽しくなってきたぞ、俺は運転席から助手席のシートに肘をついて乗り出す。



「信じる信じないだ、嘘だ本当だ言ってもなあ、幸せになったもん勝ちなんだよ。見返してやりゃいいんだよ。人なんていくらでもいる。死んでも生まれてくるんだ、ようは会えるか会えないかなんだよ。出会いの場を探せ!会いたいなら会え!愛を語れ!本当に会えないんじゃないんだから!!まどろっこしいんだよ、今の奴らは!!」



 キョトンとした顔を見てふと我に返る。うん?普通に励ましてないか、俺。



「あ、ありがとう。おっちゃんかっこいいね。憧れるよ。俺もそんな風になりたい」



 涙が落ち着いた頃ポツリと言われた。



「俺からしたら、お前の方がかっこよくて可愛い」


「そう?俺、かっこいい?」


「可愛いって言ったの無視すんな。可愛い8のかっこいい2だからな、女にしとけ。もったいない」


「みんなそう言うよ」


「でもお前さんは男なんだろ?だったらもうちょい泣くな」


「うん、ありがとう」



 可愛い笑顔にくらくらするけど、男らしくバンから降りて走り去って行った。あーもったいねぇなあ。




 カメラを持って今度のコンクールに出す写真を探す。何を撮ろうか。そうしてカップルの集まる春の花畑を散策する。俺はもうあの仕事はしていない。あの女の子はいい人を見つけられたんだろうか、それとももう男の子になっているのか。それともまた失恋しているのだろうか。

 ふと見つけたカップル、顔がわからないくらい遠くから花をくっきりと、人物をぼやけさせて一枚撮る。すると男がかけてきた、おおうどっちも男か。



「俺ら撮ってくれたの?一枚ちょうだい?」


「残念ながら顔は写してな…」


「かっこよく撮ってよおっちゃん」


「…ああ」



 俺も恋がしたいなあ

 あーいたたたたた

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