今にも自殺する人になんて声かける?

ちびまるフォイ

男が自殺にいたった理由

最近、警察学校では自殺シミュレータが導入された。

自殺する人の説得をできるようにというマシン。


画面にはビルの屋上のへりに立つ男性が映っている。


「僕はもう死ぬ!! 生きる意味なんてないんだ!!」


「待て! 死ぬんじゃない!」


「どうして死んじゃいけないんだ!!」


「えと……とにかく、この先人生には楽しい事がたくさんある!

 だからもっと頑張れよ! 諦めんなよぉぉ!!」


「もう頑張ってるよ!!」


GAME OVER


男は自殺した。


死ぬ間際の人に"頑張れ"は逆効果らしい。

本人は精いっぱいやったうえでの最終選択で"死"を選んだわけで

それを"がんばれ"と言ってちゃぶ台返しするのは無理がある。


次はもっといい感じの言葉をかけなくては。


「僕はもう死んでやる!!」


「待て! ええっと……そう! 死んだら両親が悲しむぞ!!」


「こんな状況まで僕のことを心配してくれもしない親が、

 なにを悲しむっていうんだ!!」


GAME OVER


男は自殺した。


「えぇーー……超難しいんだけどコレ……」


さすがに親の話題を出せば思いとどまると思っていた。

よくよく考えてみると、自分のことで精いっぱいの人間が自殺するわけで

ほかの他人の気持ちを考えて自殺するなって無理な話だ。


"お前は世界の裏側で飢餓に苦しんでる人ために飯を食うな!!"


と言ってるようなものだ。

知らねっての、という話になる。


「こうなったら最終手段だ……!」


再度シミュレーターに挑戦する。

ふたたび場面は屋上へと切り替わる。



「もう人生なんてまっぴらだ! ここから死んでやる!」


「待て!!」


「なんだよ! 僕はもう死ぬんだ! 説得なんてムダだぞ!」


「死ななかったら金をやろう。

 ほれほれ、いくら欲しいんだ? ん? 好きなだけやるぞ?」


GAME OVER


男は自殺した。


「んああああ!!! 金でもダメかぁぁぁ!!!」


最終手段も陥落。

いやまぁ、現実に愛想つかした人間に

現実を充実させる「金」をチラつかせても効果ないかもしんないけどさ。


シミュレータはあきらめて離れると、同僚がやってきた。


「よー。お前、このシミュレータやってんの?」


「ああ、難しくて一度もクリアできなかったよ」


「は? あんなのギャルを出せば一発じゃん」


「ギャル?」


「ま、頑張れよ」


同僚が立ち去っても自殺とギャルが結びつかなかった。

今日はもう遅いので家に帰ることに。


そんな俺に待っていたのはまさに修羅場だった。


「うおお! ここから死んでやる!!」


「ええええ……」


橋の手すりにふらふらとした足取りで立つ男がひとり。

橋の下にある川は水位が下がっているので落ちたらひとたまりもない。


「ま、待て!! 早まるんじゃない!」


あんたに死なれたら、こちとらその処理で大変なんだよ!

……とはケツが裂けても言えない。


「ほっといてくれ!! 俺は死ぬんだ!!」


「そ、そうだ!!」


たしか同僚はギャルを呼んだといっていた。

もうよくわかんないが、警察の職権を乱用しまくってギャルを呼んだ。


「えーーなに? あんた死のうとしてんの? マジうけるwwwww」



うおおおおい!!!

なに火に油どころか石油ぶっこんでるんだこの女ァァァ!!



「ああ死んでやる! もうこんな世界に生きてられるか!!」


「つかさー。あんたはどうして死にたいって思ったわけ?」


「……俺の周りはみんな彼女ができて幸せそうだ……。

 それなのに俺ときたら、どうせ一生モテないまま人生を終えるんだ……」


「はー? なにそれ? 死ぬ理由かっるwwwww」


「ほっといてくれ!! 俺には切実なんだ!!!」


どうしよう。

確実に人選をミスった気がする。


このあと、こいつが自殺しても遠回しに俺の責任なんだろうか。



冷汗だらだらな俺に対してギャルはマイペースに会話を続ける。


こういうところは、ギャル特有の懐に入る技術なんだろうか。



「てか、モテない理由ってそれじゃないの?

 モテないーって思い込み続けてさ、陰キャになってるとこじゃね」


「えっ……」


「そりゃあんたは顔は悪いけどさ。だからなんなの?

 あんたのモテない原因ってきっと、顔よりも心でしょ」


「そ、そんなことはない! 俺は誰よりも優しいし、親切にしてる!」


「それが下手だって話っしょ。女に慣れてないからきょどってキモくなるんでしょ。

 女に慣れて親切がスマートに出せれば終わりでしょ。はい論破」


「それができたら苦労しないっ……。

 俺の相手してくれる女の子がひとりもいないからこんな……こんな……!」



「あたしがいるじゃん」


ギャルはそっと男の手をとった。


「あたしはあんたの彼女にはならないけど、友達にはなってあげる。

 ちょっとキモいけど、あんた誰よりも優しいんでしょ?」


「あ、ああ……!」


男は橋から降りてギャルの手を取った。


「も、もも、もう夜遅いから、え、ええ、駅まで送るよ」


「だからキモいって。もうちょっとはっきりしゃべりなよwwwww」


二人は手をつないで静かに去っていった。

その背中はほほえましいカップルのようにも見えた……。






GAME OVER


俺は自殺した。

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