第8話 名誉
(こんなに早く来るとはねぇ…。)
アルドは目の前の人間の、狼男の指を見てそう思う。
『結局昨夜は来なかったなー。』
残念そうに言うアルド。
夜が明けるまで警備していた3人だが狼男らしいものは現れなかった。
『来ないに越したことはないが…。早く退治しないとな。』
ジンは心配そうな顔で答える。
『そういえば狼男が人間の姿でこの村に来たらどうするの?』
ローザがジンに質問する。
『指を見ればわかる。』
ジンはそう答えた。
「確かにあいつの言ってた通り中指よりも薬指の方が長い…。」
アルドはこんなにあっさりと発見できたことに驚いていたが、それ以上にワクワクしていた。
(こいつを倒せば村の英雄として称えられるかもな…。)
アルド・ユー・ジェスターは名誉に異常な執着心を持っていた。
元々彼は王家の血を継ぐ者で、なに不自由なく、いや寧ろ裕福な生活を送っていた。
しかし3年前、突然魔族がある一つの街を襲った。
そこから王族と魔族の戦争が始まった。
王家は兵だけでなく、一般市民までを戦争に出した。
そのため、王家の悪評はあまりに酷だった。
今まで人民に崇められてきたアルドはそれが日常になっていた。
王家に対する誹謗中傷に耐えられなくなったアルドは自ら魔族を倒し、王家の、いや自身の名誉を取り戻すため勇者の仲間になった。
そして今、人民が恐怖している狼男が自分の目の前にいる。
胸を高鳴らせているアルドとは正反対に雲行きは怪しく、既にポツポツと雨が降り始めていた。
「みなさん危険です!離れてください!狼男が出ました!」
アルドは大声で村人たちに呼びかける。
『なになに?』
『え?狼男!?』
周りがざわざわとし始めた。
注目されている。
そう思うとアルドの興奮は止まらなかった。
狼男は動揺しているのかキョロキョロと回りを見回している。
その間にアルドは素早く近づき目の前の敵を銀の剣で斬りつける。
「がっ…。いっでぇぇえ!」
人間もとい狼男は大声でそう叫ぶ。
すると段々と敵の体から灰色の毛と長いかぎ爪が生えてくる。
「効いてるみたいだけど…。変身はできるんだね。」
アルドはより警戒心を強める。
「うぅ…。体が…。」
しかし、敵は攻撃してくるどころか立つこともままならない様子だった。
「なんだ。つまんないなぁ。狼男って聞いたときからあんまり期待してなかったけど。ここまでなんてね。」
アルドは自分の剣を見ながら言う。
(こんなんで称えられても嬉しくないなぁ…。)
少しがっかりしつつも、もう一度剣を、今度は敵の心臓に向けて…
…が、それはうまくいかなかった。
なぜ攻撃が当たらない?
なぜ目の前にもう一人敵が?
なぜ自分は出血して?
なぜ…?
その疑問に答えが出る前にアルドは倒れた。
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