第7話 特恵と欠点

「ふぅ…。意外と行けるな、これ。」


大輔はヌオーネ村まであと100kmほどまで来ていた。

狼というのは身体能力が高く、種類にもよるが10kmを約13分で走ることができる。また、時速30〜40kmで24時間走り続けることもできるため、この長距離移動はそれほど苦ではなかった。

辺りは徐々に明るくなってきている。

近くの湖の水を少し飲み休憩を入れる。


(結構長い時間走ったけど狼ってすげぇな…。)


走っている間も思っていたが大輔もここまでとは思わなかった。


(よし。あともう少しかな。)


大輔は立ち上がろうとする……が、狼も生き物である。昨日からずっと走り回っていた大輔の体は疲労と眠気で思うように動かない。


(ちょっと眠ってからにするか…。)


そう思ってゆっくりと目を閉じる。



目覚めたのは昼前だった。


「んー…。ん?もうこんな明るく…。」


まだ覚めきっていない体を無理やり起こし、湖の水を顔にかける。


「よし行くか…。」


大輔は目的の場所へと走って向かった。


3時間ほど走ったころだろうか、遠くにうっすらと村が見える。


(あれがヌオーネ村か?とりあえずそこで少し休憩を入れてからヴェスネス城に行こうか。)


そう思って村に近づく。

しかし大輔はすぐに足を止めた。


(そういえばこの格好のまま行ったらまた追い出されるな。下手したら殺されるかもな…。)


気づかず村に着いていたら何が起こったか、それは大輔が痛いほど思い知らされている。


(でもどうやって人間に…。もうとっくに昼なのに戻らないって…。)


難しいことは考えずに『人間に戻れ』と心の中で叫んでみる。

すると大輔の体は淡く光り始めた。

数秒後、光は消え、かぎ爪や毛は無くなっていた。


(意外と単純なんだな。)


もっと儀式的なことをしないと人間に戻れないと思っていた大輔は少し驚いている。


(まぁ戻れてよかったんだけどな。)


再び村へと歩いていく。



村の入り口の前まで来るとなにやら人が立っているのが見える。

普通の人なら別に気にしないのだが、角と尻尾が生えている人なら話は別である。


(龍人?かな。まぁ異世界だから何がいてもおかしくはないんだけど。)


大輔は村に入ろうとすると、龍人は話しかけてきた。


「すみません。今、この村に危険物を持ち込もうとしている人を取り締まっていましてね。少し検査させていただいてもよろしいでしょうか?」


大輔は突然話しかけられて少しびっくりする。特に今は狼男とバレてはいけないという緊張感で自分に関係のないことでも敏感に反応してしまう。


「は、はい。どうぞ。」


動揺を隠せないが怪しまれないよう自然に振る舞う。


「やっぱり…。ジンの言ってることがあってるなら…。」


突然龍人は小さな声でつぶやく。


「どうしました?」


大輔は彼の言った言葉の意味がよくわからなかった。


「人間のフリはもういいよ。狼さん。」


そう言って龍人は、アルド・ユー・ジェスターは大輔に剣を向けた。




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