三章

いきなりの無理難題


 謁見が終わった後。

 離宮の沐浴室に案内された澄寧ちょうねいは、一人湯船に浸かっていた。


「はぁ~、いいお湯。疲れもとれそうだな……」


 そう言いながら、澄寧は今日一日酷使しまくった筋肉をほぐしていく。

 本当に、いい湯であった。



 しかし、そんないい思いもそう長くは続かなかった。

 これは、湯から上がった澄寧が着替えの入った葛籠つづらの中を見た時の反応である。



◆◇◆



「はぁ~、すっきりした、すっきりした」


 湯から上がった澄寧は、そう言いながら手拭いで身体を拭く。それから、着替えを入れておいた葛籠の中をのぞいた後。ふと首を傾げた。


「あれ? なんだ……………コレ?」


 おかしいな、ちゃんと着替えは持ってきたはずなのに。のぼせて頭でもおかしくなったかな?

 思わず澄寧は自分の目を疑った。数拍ほど思考が停止する。

 それから、何かを見てしまった人のように、葛籠の蓋を元に戻した。


(ええっと……、これはなんだろう?)


 もう一度、自分自身に問いかける。自分は正気であるかと。

 この時の澄寧には、湯上がりの気持ち良さなどとっくになくなっていた。

 意を決して深呼吸した後、再び葛籠の蓋を開ける。

 しかし、現実は変わらずにそこにあった。


「嘘だろ…………」


 思わず澄寧は、ヒキガエルが潰れたような呻き声を上げた。

それから、脱力したように肩を下ろす。


 そこには――――なんと、女官のお仕着せが入っていた。

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