皇太子殿下との謁見


 それから約半刻後。

 澄寧ちょうねいは、謁見の間(と思しき室)で、一人、叩頭していた。


(…………離宮に入る前に塀登り……って、この国の皇太子殿下は大丈夫なのか……? っていうか、早く来いよっ)


 澄寧は心の中で、大きく、そしてこの上なく不敬なツッコミをいれていた。何を隠そう、ここ四半刻ほどたった一人、ぽつんと残されている状態なのである。

 それに。


(ううぅ〜。そろそろこの姿勢、キツくなってきた、いつもは使わない筋肉ばかり使ったからかな…………? もう、早く来てよ……)


 ――――皇太子殿下。あなた様の変人奇人っぷりは、よぉ〜くよぉ〜くわかりました。だから、早く来て!


 もはや最初の頃の怒りも忘れた澄寧が、神頼みをするかのごとく心の中で祈っていたら――――突然。

 バタン、と、謁見の間の扉が開く、音がした。

 何の前触れもなしに、誰かが謁見の間に足を踏み入れる。こつ……、こつ……、と沓音くつおとを響かせながら。ゆったりとした速さで歩を進める。

 その音は、澄寧の目の前で、ぴたりと止まった。


「面をあげよ、白澄寧」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る