突然の命令《2》



「ええぇぇ――――――――――――っっ‼︎

私に、宮仕えしろと仰せですか――――――――っ!」


 少年は、叫んでいた。声の出る限りで。なぜなら、は少年にとって、天変地異にも等しいことであったからである。

 そんな少年の様子を、まるで面白い芸当を観るかのような、茶目っ気な瞳で見つめる老人が、一人。彼は、ひとしきり少年の反応を楽しんだ後、こう口を開いた。


澄寧ちょうねい。何も難しい話ではないぞ。わしはの、ちょおーっと皇太子殿下の元へ、奉公に上がれと言うておるだけじゃ」


 これに少年――――澄寧は、ムッとした顔で言い返した。


「ええ、ええ、お祖父さま。さぞ光栄なことと愚考いたしますよ。一族の者が、次代の皇帝陛下になりあそばれる、皇太子殿下の元へ上がらせていただくのですから。お祖父さまも、さぞ鼻が高うございましょうな」


 眉目秀麗、品行方正、政務には意欲的に取り組んでいるが、女と遊びが嫌いな変人――――と言う噂が、白州の田舎にいる自分に聞こえてくるあの皇太子殿下に誰が仕えるか、このバカッ!

 口にはしなかったものの、澄寧は内心こう思っていた。

 しかし、そんなことを言ったとしても、この老人には効きはしないだろう。なんせ相手は百戦錬磨の古狸である。その証拠に、


「ほぉほぉ、これは感心感心。流石は我が家の期待の星、しっかりと務めを果たしてくれそうじゃの。これで我が家も安泰安泰。老い先短いわしも、安心して冥土に行けそうじゃ。感謝するぞ、澄寧」


と、出てもいない涙を袂で拭う真似をする。

 ピキッと、澄寧のこめかみに青筋が浮かんだ。握る拳がぷるぷると震える。

 そして、次の瞬間。


「――――ッ! 勝手なことほざくんじゃねぇよ、この狸ジジイ――――ッ‼︎」


 澄寧の怒りは爆発した。



◆◇◆



 澄寧は、髙国五大貴族が一つ、白家直系筋の家の生まれだ。家の名は、白斎家。その名の通り、白家の神事を司る、神祗の一族の家だ。

 そこの当主の跡継ぎ夫婦の次男坊として生まれた澄寧は、このまま一生、神域の中で生きていくのだと、ただ漠然と思っていた。


 髙国には、神獣と呼ばれる尊い生き物がいる。例えば、龍、鳳凰、麒麟、亀、狐など。

 あくまで伝説上の生き物だと信じられてきたものが多いのだが、これらは確かに存在するのだと言う。

 それは、髙国建国神話まで遡る。


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