出る度に名前が変わる女神N'tse-Kaambl(ヌッセ=カアンブル)
𠮷田 仁
RPGではEldersignの生みの親
Cthulhu MythosにはCthulhu等Great Old Ones(旧支配者)だけでなく、彼等に敵対するThe Elder Gods(旧き神)もまた様々な神々が登場する。有名な所ではNodens(ノーデンス)やKthanid(クタニド)と云った存在。又、小説では名前が無かったLair of the Spawn(「羅睺星魔洞」又は「潜伏するもの」)」でLloigor(ロイガー)を滅する為に出現した存在はRPG「Call of Cthulhu」でOrryx(オリュクス)の名が与えられたりしている。そして、恐らくこれもゲームで設定が加えられたと思しき女神が居る。珍しくヒューマノイドの女神で、小説ではDreamlandsで信仰されている女神としてのみ名前が登場している存在だ。その名はN'tse-Kaambl(ヌッセ=カアンブル)。August Derleth(オーガスト・ダーレス)に依って世に送り出されたCthulhu Mythosの第二世代作家の一人Gary Myers(ゲーリー・メイヤーズ)の筆に依る。
この女神は(恐らくゲームでの設定なのだろう)Elder Signを創造したとされているらしいが、本当だったらゲームではGreat Ones(偉大なる者)の一柱だった可能性が高い。と云うのは、この女神は実在すら不明で、只、人々に崇められていると云った記述以外何も無く、その点ではSarnath(サルナス)のTamash(タマシュ)、Zo-Kalar(ゾ=カラール)、Lobon(ロボン)と似た様なものだ。そしてTamash、Zo-Kalar、Lobonは後にGods of Earth(大地の神々)の一員と目されゲームではGreat Onesの一柱とされているからだ。(Myers自身はSarnathの三神をGods of Earthに数えている様子は無く、又、彼のN'tse-Kaamblも人々がすがる為の架空の神性である事を匂わせている)それがThe Elder Godsの一柱に数えられるのは、或る時期、彼の作品においてThe Elder Godsに関して特異な設定が語られていた事が有ったからだ。
それでは、この女神の名前の変遷について記すと共に、彼独自の世界観についても順序立てて記してみる。
THE HOUSE OF THE WORM(「妖蛆の館」ARKHAM COLLECTOR の7号=1970年夏号掲載)
Dreamlandsを舞台にしたGary Myersのデビュー作であり、此処で表されている女神の名はNsekmbl。日本語ではヌセクンブルと表記されている。
2017年7月現在、唯一邦訳の有るメイヤーズ作品で、本作ではいつかGreat Old Onesの封印が解けThe Elder Godsの敗北の時が訪れるのだと云う暗い予感が語られている。
YOHK THE NECROMANCER(ARKHAM COLLECTOR 8号=1971年冬号掲載)
前述の1.の後を受けた連作第二話。女神の名はN'sse Kaambl(ヌッセ=カアンブル)に変更されている。
The House of the Worm(単行本。1975年発行)
Arkham Houseから刊行されたハードカバーのノヴェラ。前述の1.と2.をそれぞれ第一章、第二章とし続くエピソードを加えた書き下ろし連作集。女神の名は全てN'tse-Kaambl に置き換わっているが。この名がRPGに取り込まれた。
この単行本では特に第一章が、根幹と成る世界観そのものが、大きく書き換えられている。それは謎めいたThe Elder Godsの正体が非力なGods of Earthであると云うもので、恐らくこの設定が有ればこそN'tse-KaamblがThe Elder Godsの一柱としてRPGに取り込まれたのだろう。遙かベテルギウス星系で様子を伺っていた非力なThe Elder GodsはGreat Old Ones達が眠りに就くと地球に飛来し眠りが続く様に封印を施した。彼等はそのまま居続けたが歳月を重ねる内、ますます弱体化しベテルギウスに戻る事すら叶わない程に成ってしまった。唯一、封印の監視役Nodensだけは力を残し封印のメンテナンスを続けていたが、彼が力尽きたら封印をかけ直す者は居なくなりGreat Old Ones達が復活すると云うもので、結局、未来は暗い。
The House of the Worm(作品集「The Country of the Worm」(2013年)所収)
前述の3.にその後のアンソロジーに収録されたNath-Horthath(ナス=ホルタース)を主人公とした想わせぶりなだけの短編「Gods of Earth」を加え、若き日のEibon(エイボン)を主役としたシリーズや妖術師をテーマにした作品群を加えたボリュームの有る作品集。キンドルでも出ている。
此処でN'tse-Kaamblの名は全てDjin-Mah-Kwee(ジン=マー=キー)に書き換えられている。
更に肝心のThe House of the Wormの第一章はThe Elder Godsに関して大きく世界観が書き換えられ……結論から云うと、細かい文章は別としてほぼ初出に戻されている。1970年に発表され、1975年に大きく変更されたThe Elder Godsを巡る世界観は38年の時を経て再び元に戻った事に成る。もし、今、Cthulhu Mythosの様々な要素を新たに取り込み直す事に成ったら、Djin-Mah-KweeはGods of Earth、いやGreat Onesの一柱と成るのだろうか。
そしてGary Myersに依る女神の名前の変遷とThe Elder Godsに関わる世界観の変更は本当にこれで終わったのだろうか?
出る度に名前が変わる女神N'tse-Kaambl(ヌッセ=カアンブル) 𠮷田 仁 @ZEPHYROS
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