《見てたんだろ?》

 オレには少し変わっていると認識している趣味がある。それはテレビの放送終了後に流される夜景を見ること。ほぼ毎日録画しては観ていた。でもさすがに仕事が忙しくなると毎日見てる訳にもいかず録画が溜まっていく。


 で、これは昨日の話だ。いつもの様に満員電車に乗っていると『あんた、見たんだろ?』と低い声が聞こえた。満員電車の中だったがあれは確かにオレに向けられた言葉だった。帰りの電車の中でも『昨日の見てたんだろ?』と同じ声がしたが意味が分からなかったので無視した。昨日なんていわれても思い当たる節がない。昨日会社の近くで新聞配達員が刺されたということは少しだけ話題になったけど、昨日オレは早朝出勤してないから関係ないし、やっぱり昨日といわれて思い当たることなんてない。

 その日はそのまま家に付くとすぐに寝たから今日になる訳だが、仕事の忙しさが一段落して今日は休みなので貯まっていた夜景を見ることにした。このカメラは時々映る場所が変わる。でも大きな変化がある訳じゃない。けどそれをダラダラ見るのが癒される。うつらうつらと変化の薄い映像を眺めていた。が、急にいつもと違う場所が映し出される。夜の映像なのでわかり辛いけれど、会社の近くだということがなんとなくわかった。その映像は次第に明け方になっていき――そこには小さくだがハッキリと新聞配達員が刺される様子が映っていた。ハッとしてオレは電話に手をかける。でもそれと同時に玄関の向こうからあの低い声が響いてきたんだ。


『やっぱり見てた』

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