-5-「排水口の奥」


   ⑤


 ナツキたちは行く先々で出会う犬や猫の動物たちにゲーム機越しで話しかけて、トッティの行方を尋ね回った。


『ああ、その犬なら知っているけど、最近は見かけてないよ』

『知らないね』

『ん? ああ、シバのところのヤツか。すまんね、ウチのボスから敵対関係あるヤツらと口にするなと言われているからな‥‥。だけど、最近は見てないぜ』


 ゲーム機は正常せいじょうに動作しているのか解らないが、鳴き声をヒカルたちが解る言葉ことば翻訳ほんやくされていく。


  ナツキはトッティ探しよりも動物たちとの会話に楽しさを感じており、トッティ探しの辛さと心配は何処どこへやらな感じだった。


「ナツキちゃん、何か楽しそう」


「まぁ、あんなもんでしょう。異人(?)とのコミュニケーションを取れる楽しさは」


魔女マギナさん。この間からそうだけど。魔女さんの魔法って、なんかイメージしていたものと少し違うよね」


「イメージと?」


「ほら魔法って言うと、空を飛んだり、ネズミを馬にカボチャを馬車に変えたりするもんじゃない。それに今回みたいでも、ああやってゲーム機じゃなくて、直接動物が話せるようにするとかあるじゃない?」


「ああ、よく絵本とかでそういった魔法があるわね。もちろん、そういったものも使えるけど‥‥。いいヒカル。前にも説明したけど、万物の事象を理解することが出来れば魔法は誰にだって使えるようになる。その一例が機械よ。それに現にあったりするんでしょう、ああいう翻訳機が」


「おもちゃだけどね」


 犬の鳴き声を翻訳する玩具の存在はヒカルも把握していた。


「それでイイのよ。存在していることが何よりも重要なことよ」


 魔女とヒカルを余所よそに、ナツキは一軒家の入り口付近の犬小屋で鎖に繋がられて伏せている犬に訊ねていた。


『そいつなら新参者しんざんものだったから吠えてやったよ。そうしたら、あの川の方へ行ったぜ』


 犬は反対方向の道路のガードレールの奥で流れている川に視線を向けた。


 川というのは市内の中央を分断するように流れている“境川”。二級河川にきゅうかせんで深くも幅広はばひろくもない。


 ヒカルたちにとっても馴染なじみのある川で、遊び場だったり、川の上流には鶴美山つるみざんがそびえ立っており、一学期の春頃にもよおされた遠足ではこの境川の河川敷かせんしきを通って鶴美山を目指したりした。


 河川敷の道幅は広く、草が生い茂っている。

 等間隔とうかんかくに桜の木が植えられており、春には花見客はなみきゃくにぎわうところだが、今は深緑しんりょくの葉がしげっていた。


 ヒカルたちはその境川の橋の端にある石階段いしかいだんから河川敷かせんじきに下りて、辺りを見渡す。


 現時点で唯一の目撃情報もくげきじょうほうについて、ヒカルがナツキに確認をする。。


「ここにトッティが?」


「うん。こっちに行ったのを見たんだって。もしかしたら草っ原とかに隠れているかも知れないからヒカルたちはそっちを探して!」


「う、うん。わかった。魔女マギナさんも‥‥」


 ヒカルが魔女マギナの方を見ると、これまで見たことがない怪訝けげんそうな表情を浮かべていた。


「(いつも笑っているのに‥‥)どうしたの?」


「ちょっと変な違和感いわかんがしてね」


「違和感?」


 再び辺りを見渡して見るが特に変な感じはしなかった。

 一見いっけんして、いつものの境川だ。


「そうかな?」


「なんて言うのかな。おねしょをしたヒカルが、布団ふとんを隠そうとしているような感じがするのよね」


「なに、その例えは‥‥」


 魔女の変な言い草にあきれるヒカルに気付いたナツキが声をかけてくる。


「二人とも、なにしているのよ。早くトッティを探そうよ!」


「うん。あれ、魔女さん‥‥」


 魔女マギナ川岸かわぎしの隅に大人が身をかがめれば、ギリギリ入れるほどの大きなサイズの排水口に近づき、中を覗き込んでいた。


「魔女さん、なにやっているんですか?」


「もしかしたら、この中にワンちゃんが入ったかも知れないわよ」


 奥は真っ暗で何も見えなかったが、何かの気配を感じ取ったのか魔女マギナ躊躇ちゅうちょなく身を屈めながら排水口に入っていった。


「え? ちょっと魔女さん」


 後を追うようにヒカルたちも排水口に入ろうとするが、無意識むいしきに足を止めてしまった。


「あ、あれ?」


 入り口でとどまっているヒカルに先行く魔女が声をかける。


「どうしたの?」


「いや、なんでか。足が止まって‥‥動かせないというか」


「ここに近づいちゃダメな感じがして‥‥」


 ヒカルとナツキはまるで地面に足首をつかまれているようで、一歩も足を踏み出せないでいた。


「なるほど、結界が張られているのね」


 二人の様子を見て、ヒカルのような“普通”の人間が入れない仕掛けが仕組まれているのをさっすると共に、この排水口の奥に異様なものが在ると確信した。


 魔女が軽く拍手かしわでのように手を叩くと、ヒカルたちの足が動くようになったが、


「「うわわわわっっっ!」」


 突然だった為にバランスをくずし、二人はたおれ込んでしまった。


「痛たた‥‥」


「なにやっているのよ。ほら、さっさと行くわよ」


「ちょっと待ってよ、魔女マギナさん!」


 お構いなしにと魔女マギナはスタスタと排水口はいすいこうの奥へと進んでいく。


 ヒカルとナツキは立ち上がり、お互いの顔を見合わせると「後を追いかけるしかない」と心でつぶやきき、魔女の後を追いかけていった。


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