エピローグ

 あのあと。

 瀑布は逮捕された。具体的に何という罪なのかは知らない。


 瑞川典那を殺したのが丘沙木知彁だということは、公式に認められた。

 被疑者が死んでいるのだから、どうしようもなかったけれど。


 せっかく犯人を明かしたとはいえ、正体が友人だっただけに、柚雨と馴子はあまり喜ばなかった。ただし、杜樅は本物の名探偵と会ったことを喜んでいて、なんというかミステリ好きはあんなんなのか、という感想を抱いてしまった。


 硝子さんは、今までどおり店を続けている。

 ただ、朝の散歩コースは変えたらしい。


「――で、この事件は終わりですか」

「終わりだね」


 今日もドヴォルザークの鳴り響く演劇部の部室でわたしたちは事件について話していた。

 今日はスラヴ舞曲集らしい。


「まあ、瀑布の判決が確定するときが、真の終わりかもしれないが、そこまでは関われない。あと、林くんの調子が恢復したら、という終わりもあるかもしれないがね」

「まだ、本調子じゃありませんか」

「ああ。だいぶ参ってるな。わたしが朗読させたせいかもしれんが」


 素直に、そうだあんたのせいだ、と言うことはできなかった。


「――わたしは、人殺しの死に悲しんでるのでしょうか」

「誰が何に悲しむかは自由だよ。一人で勝手に悲しむ限りではね」

「知彁はどうしたら良かったんでしょうか」

「本人も認めてるだろ、周りに相談すりゃ良かった」


 きっと、そうなのだろう。だろうけれど、釈然としない。

 それを言ったところで、わたしの感情的な意見は玲子の論理に粉砕されるのだろうけれど。


「自殺は、止められなかったのでしょうか」

「――わたしも、そこまでは予想していなかったからな。計画通りに、典那が怪我で済んでいれば知彁も素直に自首したんだろうが」


 しかし、典那は死んでいて、知彁も死を選んだ。

 知彁に死を選ばせ、だけどある意味計画通りに、瀑布の罪を暴いたもの。


「――それは、少女の死体だった」


 窓の下の花壇を眺めながら、わたしは呟いた。


 ――閉幕カーテンフォール

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