墓荒らし

愛川きむら

墓荒らし

相川栞が最期に選んだ場所は――死体安置所だった。

ほこりっぽい空間で薄暗さを体感する。

ライトを消して栞さんの隣に寝転ぶ。

「やっぱりここがいちばん落ち着く」

「スキモノですもんね」

「そんな下品なものじゃないよ。死体は一種の美」

顔を彼女側に向ける。暗闇で見えなくとも、栞さんの目が輝いていることが伝わる。

「……わたしって、幸せ者だね」

「どういう意味です?」

「死ぬ寸前は君がそばにいてくれて、死んだ後はここにいる死者たちに迎えられる。わたしはひとりじゃないんだって思うとうれしくて」

胸がかすかに痛むと同時に、なにか温かく愛おしいものがこみ上げてくる。

音を立てずに上半身だけを起こし、そっと彼女の唇に口づけする。

すると、栞さんの口からこぼれる吐息が震えだすのがわかった。

「……死にたく、なかったなぁ」

ぼくはそっと抱きしめてあげた。もちろん手も握ってあげた。彼女が寂しくならないように、怖さをすこしでも紛らわせてあげられたら。



君の声はもう聞こえない。聞けない。聞かせてくれないね。

君の胸の鼓動ですら感じさせてくれないなんて、とり残された気分だよ。

わけのわからない病に、君の体、君の心、すべてが蝕まれていったと思うとひどく悔しいし、妬いてしまう。

栞さんが最後にこぼした涙をそっと舌先で舐めりとる。

あなたには、ぼくのこの醜い下心に食い尽くされてほしかった。

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墓荒らし 愛川きむら @soraga35

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