第103話

小さなリュックサックを背負って『えっへん』と胸を張っていてる怪力ちびっ子レッサーパンダが蒲田の街角をテクテク歩いてる。

あらっ?蒲田名物の黄色い激安50円自販機の前で立ち止まったわね。

んー、あの子の大好きなオレンジジュースが飲みたいのかしら?

黒蜜おばばの家がある田園調布に近い蒲田にちびっ子レッサーパンダが一人で初めてのお使いに来てるのだけれども私はコッソリ暗闇を移動しながら様子を見に来てる。

そう言えば今日のお使いのお駄賃は50円だったわねぇ。

うん、この自販機のオレンジジュースならお駄賃で買えるわね。

自販機の前で値段を確認してニッコリ笑ってから駅前を歩いて行くちびっ子レッサーパンダ。

そんな姿を見て歩いてる人々も微笑んでるわ。


あの子のお使いは京急蒲田駅近くの商店街にあるお店で羽根付き餃子を五人前買って帰る事。


普通のちびっ子レッサーパンダでは無理だけどあの子は怪力ちびっ子レッサーパンダ。

羽根付き餃子なら何人前でもへっちゃら。


ん?タイヤが溝にはまって動けない車があるわね。

運転してたお姉さん泣きそうな顔で外に出て車を見ている。

ちびっ子レッサーパンダ、泣きそうなお姉さんを見てから車を見て状況を把握した見たい。

すると車に近づき片手で車をサッと持ち上げ溝から車を出し車道に優しく降ろす。

泣いていたお姉さんや周りの人はビックリして固まってる。

かっこ良くそのまま立ち去ろうとしていたちびっ子レッサーパンダに気づいたお姉さんにヒョイっと両手を脇に手を入れて抱えられ手足をパタパタさせてる。

ウフフ、可愛いわねぇ。

力はあっても小さいからあんな風にされると無力なのね〜。

それこそ手も足も出ない状態。


お姉さん、ちびっ子レッサーパンダに御礼がしたいと言ってるみたい。

それを聞いたちびっ子レッサーパンダ、近くにあった例の黄色い激安自販機を指差してる。

お姉さんはちびっ子を片手で抱き自販機に近づきオレンジジュースを指差す。


あの子、フルフル顔を横に振ってる。

あらっ?あの子の好きなオレンジジュースを選ばないの?

お姉さんに50円のお汁粉を買って貰ってるわねぇ・・・あの子あんなの好きだったかしら?

小さなリュックサックにお汁粉の缶を入れて貰ってお姉さんに手を振って商店街の方にまた歩き始めた。

しばらく歩くと今度はなんと!工事現場の塀が歩道側に倒れて来てあの子の前にいた人を押し潰しそうになってる!!

ちびっ子レッサーパンダは落ち着いた様子で倒れそうな塀を片手で支え元の位置に戻してしまったわ。

すると工事現場から現場監督さんが現れちびっ子レッサーパンダに頭を下げてる。

潰されそうになった人も御礼を言ってるみたい。


ん?何か現場監督さんとコショコショお話ししてる?

笑顔の現場監督さんポケットから小銭を出して近くにあった黄色い激安自販機で今度は玉露入り緑茶を買って貰ってる・・・。

何だか変ねぇ、あの子冷たいのはオレンジジュースかピーチネクターか乳酸飲料しか駄目で暖かいのならココア飲めないはずなのに。

玉露入り緑茶をリュックサックに入れて貰って再び歩き出す。

やっと餃子の店へたどり着くと店員の女の子にメモを渡す。

店員さんはちびっ子レッサーパンダの頭を撫ぜてからヒョイっと両手で抱えレジ近くの席に座らせ調理場へ。


五人前の羽根付き餃子を受け取ってお金を払ってお釣りを受け取ったちびっ子はお釣りの中に50円玉を見つけリュックサックの外ポケットに大事に入れてる。

残りのお金は小さなチャックの付いた餡子さんが作ってくれたレッサーパンダの顔入り財布の中にしまってリュックサックの中に。

羽根付き餃子を片手で掲げて再び蒲田駅に向け歩き出した。


最初にお汁粉を買って貰った黄色い激安自販機の前でリュックサックのポケットから50円玉を出してジュースを買おうとしてる見たいだけど背丈が足らなくて悩んでる・・・。

そこへ不良っぽいお兄さんが通りかかって膝を折りちびっ子レッサーパンダに話し掛けウンウンと頷き50円玉を受け取り自販機に今度はブラックのコーヒーを買って貰ってる・・・

本格的におかしいわねーコーヒーなんて。

コーヒーもリュックサックに入れて貰ってお兄さんに手を振って別れ蒲田駅に。

私は、改札脇からPASMOを駅員さんに渡し駅構内に入るちびっ子レッサーパンダを確認した後、黒蜜おばばの家に帰る為に近くの暗闇に紛れた。


約30分後、羽根付き餃子を持って帰って来たちびっ子レッサーパンダ。

テーブルに餃子とお釣りの入ったお財布を置くと背中のリュックサックから缶を取り出し私達の前にコン、コン、コンと置く。

黒蜜おばばにはお汁粉、チョさんには玉露入り緑茶をそして私にはブラックコーヒー。


何々?お駄賃と人助けして買って貰ったのだから安心して飲んで頂戴、僕は一人でお使いに行けるお兄さんになったから黒蜜おばばやチョさん蜜ちゃんが好きな飲み物を買って来たんだ!偉いでしょ?ですって!


私達は、目に涙を溜めながらちびっ子レッサーパンダの頭を撫ぜてから少し緩くなった飲み物をニコニコしながら頂いた。

ちびっ子レッサーパンダには家にあった冷たいオレンジジュースを出して。


後日、塀の倒れた工事現場を受け持つていた建設会社から箱に入ったオレンジジュースが1ダースと溝にはまっていた車のお姉さんからもオレンジジュースが二箱届いた。

一緒に付いていた手紙を見ると。

『僕、ホントはオレンジジュースが好きだけどお家にいる大好きなチョさんに玉露入り緑茶を買ってあげるんだ』と言っていたけれどもちゃんとした御礼としてオレンジジュースを贈ります。と現場監督さんからの手紙に書いてあった。

もう一つのお姉さんからの手紙には

『オレンジジュースを買ってあげようとしたら「僕がお姉さんを助けて買って貰うジュース、一緒に住んでる黒蜜おばばの好きなお汁粉にしてちょうだい。僕が働いて貰うジュースをあげたいの」と言うのでお汁粉にしたけれども改めてオレンジジュースを贈ります』と書いてある。


私は、あの時に見ていたのだけれどもちびっ子レッサーパンダに聞いてみた。

「あなたは、この前のお駄賃でオレンジジュースを買わないで私のブラックコーヒーを買ってくれたの?」

するとちびっ子レッサーパンダは恥ずかしそうにモジモジしながら。

『一番大好きな蜜ちゃんには初めてのお使いのお駄賃でコーヒーを買ってあげようと決めてたんだ』だって♡


私は、ちびっ子レッサーパンダをギュッと抱きしめてクルクルと回った。



あれからちびっ子レッサーパンダが蒲田の街を歩くと色々な人が黄色い激安自販機でオレンジジュースを飲ませてくれる様になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る