第13話
撫子の浴衣を着て地獄人参茶を飲む蜜を見ながら黒蜜おばばは考えた。
あの人化薬を飲んだならば最低1カ月は人化したままだろう。
まだ小さい蜜の精神には負担がかなりかかると思われる。
地獄の使者になり身体の負担は大丈夫だろうが人として振る舞う事による慣れないストレスが心配だ。
1カ月も人化していれば犬⇄人化は腕輪の魔力を使い簡単に出来る様になるだろう。
しかし、蜜の精神が育つまで人化している時間の制限をかける必要が有る。
これは、1カ月後に甲斐犬に戻った後に蜜の状態を見て考えて行こう。
「さっそくだけど出来上がった”特人化促進薬”を横浜の魔女の所へ届けておくれ。大分焦っている見たいだから」
調剤室に入り茶色い薬瓶に入れた”特人化促進薬”を持って戻ってきた黒蜜おばば。
買い物籠に薬を入れ籠を蜜に手渡す。
受け取った籠の持ち手を口に咥えようとしたが思い止まり両手で正面に持ち直す。
「横浜の魔女のいる場所を教えて」
と買い物籠に語り掛ける蜜。
送られて来た場所をイメージしながら黒塗りの下駄の先端を食器棚の間にある暗闇に紛れさせた。
次の瞬間、豪華な装飾が為された寝室のクローゼット脇の暗闇から現れた蜜。
目の前のベッドには人狼の男の人が苦しそうな息をして寝ている。
不意に現れた私を見て警戒するベッドの周りを囲む人々。
「黒蜜おばば・使い魔・蜜・お薬・出来ました」
その言葉に長身で長い白髪、目付きの鋭い年配の女性が蜜に近づき買い物籠を奪い茶色い薬瓶の中身を確認しながら。
「本物かい?本当に完成するとは・・・」
その様子を見た蜜は自分の顔を指差したどたどしい言葉で。
「本物・私・犬・人・なった」
その言葉を聞いた白髪の女性は隣にいる女性に薬瓶を渡すと蜜の顔を両手で挟んだ。
「黒蜜おばばの新しい使い魔は暗闇から暗闇に移動出来る真っ黒な甲斐犬と聞いている。先程クローゼットの脇から現れたのと黒蜜おばばの買い物籠、中国の古銭と牙の付いた深紅の首輪。これは本物と見て間違い無いな。さっそく人狼君に飲ませてみるか。一月に一錠と瓶に書いてあるな」
瓶から真っ黒な喉飴そっくりな錠剤を一錠取り出しベッドに寝ている人狼の男性に飲ませる。
次の瞬間キリッとしたハンサムな中年男性の姿に人狼状態から変化する。
眼を開けベッドから立ち上がった男性が最初にした事は蜜の手を握り。
「やっと会えた。僕の妻よ!あれから随分探したんだよ。」
呆然としている二人の年配の男女に。
「お父さんお母さん、この人が僕の運命の女性です。以前に一度出会った時に”ビビッ”と来ました。長老に子供の頃から自分の番(つがい)は出会えば解ると聞かされていましたがあの時に意味が解りました!彼女を一生離しません」
蜜の手を握る手に力が掛かる。
逃げようと手を振り解こうとしても毒の影響が”特人化促進薬”の魔力で吹き飛び体調万全の人狼に敵う訳が無い。
蜜は少し落ち着きを取り戻し最初にこの部屋に入った時から気になっていた手を握っている中年男性の匂いをクンクンと嗅ぎだした。
匂いを嗅いだ後、首を傾げて。
「竹輪の天麩羅・オジサン?」
と呟いた。
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