第三話 召喚

 ゲームと称しているが、どうやら自分たちの命運をかけた、命懸けのゲームらしい。

 悪魔たちは喜ぶものや落胆して顔を青くするものなど様々な反応だ。



「ウラクちゃん……これ、かなり危険なんじゃ」

「ええ……そうね。本当に命をかけた悪魔の戦争。危険じゃないわけがないわね」



 だが、悪魔同士で戦うわけじゃない。召喚した者が王となり戦う。つまり自分の腹心となる人物が一番重要なのである。

 そして個人だけではなく、国も発展させて行かねばならない。大分高度なゲームだった。



「一通り読めたかな! 質疑応答を受けるよ。あっやめたいっていうのは無しね。一応悪魔の総括みたいなもんだから」

「サタン様。一つよろしいでしょうか」

「いいよ。君は……ハーゲンティだね」



 牛の角を持った、女の悪魔が前に出る。どこか知的な雰囲気を醸し出している。

 彼女はサタン様に一礼すると、質問をする。



「この文面では、規定をカバーしきれないかと思われますが」

「うん、細かい事書いていくとキリがないからねえ~その都度念話で伝えるよ。逆に言えば、咎められなかったらそれは黙認するって事ね」

「はい、応答ありがとうございます」



 いわゆるルールの穴……、裏を突いて戦争を有利に進める。

 要は各々それを見つけて試していいよということだ。



「私も一つ、いいですか? サタン王」

「君は、えっと……ああ、ウァプラか、会うたびに姿が違うから気づくのに時間がかかったよ。」

「申し訳ありません、王よ」

「いいよいいよ~、なんでも聞いて」


 今度は獅子の頭を持った獣人の悪魔が質問する。

 丁寧な受け答えと姿勢で、アマイモンの様に紳士的だ。



「この召喚術に関する詳細を教えて頂いてもよろしいでしょうか? この召喚こそが勝敗を左右すると言っても過言ではございません」

「うんうん、そうだね。じゃあ今から説明するよ!」




 サタンは笑みを浮かべて地に降りる。

 ストンと降り立つと此方を向き直し、口を開く。



「君たちに与える召喚術はね、アビリティを媒体とする召喚術だ。その特性が強ければ強いほど召喚に左右される。と言っても君たちに根強く入っている【悪魔】のアビリティは意味が無いけどね」

「という事は、起源アビリティが最も召喚に影響する。と言う事でしょうか?」

「そうだね。起源以上に強い特性があればそっちに引っ張られるかもしれないけど、大体起源で決まってくるだろうね」

「応えて頂き、感謝します、王よ。」



 私はこの質疑応答に、焦りと落胆を感じた。

 起源アビリティが強く影響する。と言うことは、私の召喚に応じるのは……



「ただの民が来るって事ね……」

「ウラクちゃん……」



 グレモリーはまたも綿井を心配そうに見る。

 だが、まだそうと決まったわけではない。例外もあるとサタン様は言っていたのだ、それに賭けるしか無い。

 どの道この戦争はもう避けられないのだ。

 私はグレモリーを撫でて、笑って返す。



「もう質問はないかな~? じゃあせっかくだからこの場で召喚をやってみるよ。悪魔が召喚するなんて最近はやらないから、知らない子もいるだろうしよく見ててね」



 サタンが手をかざすと地面に魔法陣が浮き出る。

 そして、サタンが詠唱を始める。



「――我が其の能才を通し、召喚に応じよ。コントラクトサモン!!」



 サタンの前に出た魔法陣が光りだす。

 光が人型の形を取り、段々とその姿が明らかとなっていく。

 そして、一人の少女が悪魔たちの目の前に現れる。



「――貴様が私を呼んだか。……ふん、なるほど、異常なまでの力だな」

「私はサタン、悪魔の王だよ。君の名前は?」

「我が名は……テュポーン」



 テュポーン。とある次元の、強大な怪物の王であり、神でもある。

 本来の召喚とは、自分以上の強さを持った者を召喚することはできない。

 サタンの圧倒的な力があるからこそ、彼女を呼び寄せたのだ。

 ちなみに、契約者が悪魔を呼び寄せるのは召喚ではなく、ただの取引だ。



「これまた凄いのが来たなぁ。今回は君に戦争の風紀委員でもやってもらおうかな。」

「風紀……委員?」

「まぁ、私が言ったことをやってくれればいいよ。それで皆、こんな感じで召喚するんだ。ちなみに君たちに渡した召喚術、普通に自分以上の強さを持った生物も呼べるから、注意してね。下手するとそのまま殺されちゃうからね」



 これまたとんでもない事を言い出した。

 召喚はランダムなのにも関わらず、運が悪ければ殺されてしまう。

 理不尽にも程があるが、もはや逃れる術はない。

 テュポーンはサタンの後ろに下がり、何を考えているのかわからない表情で悪魔たちをみている。



「他に何か質問はないかな? まぁ今は無くとも、実際に始めれば疑問に思うことも出てくるだろう。心で強く念じれば、その時は私が答えられる内容なら、答えてあげよう」

「ハイハイハーーーーーイ!」

「その元気な声はガープだね。質問かな?」

「サタン様! ご褒美ってなんですか!?」

「……ガープ。サタン様の御前では慎みなさい」

 


 そのガープと言う少女は大声でサタン様に問う。そのガープを、アマイモンが諌めている。

 実際この質問は私も気になる所だ。褒美と言う表記は、随分漠然としている。 

 戦争で利用価値のあるものなのか、はたまた関係ない代物なのか。




「褒美はね、勝ってからのお楽しみ……というやつさ。一応、戦争でも利用価値はあると思うけどそれをどう活かすかは君たち次第さ」

「わっかりましたー! いっぱい勝って、いっぱいサタン様からご褒美貰うね!」

「うんうん、その意気だよガープ。頑張ってくれ」

「はーい!!」



 ガープは元気いっぱいに返事をしすると、後ろに下がった。

 私に変な趣味はないが、あんな元気な少女を見ていると、微笑ましくてこっちまで元気が出てくる。

 サタンは他に質問がないことを確認すると、よしっと手を叩いて再び空へと浮かぶ。




「と言うわけで、3日後にゲームを開始するよー。次元の欠片はゲーム開始前に渡すから、それまでに召喚しておいてね。じゃあ解散!!」



 半ば一方的に、パンデモニウムの悪魔集会は終わった。

 悪魔たちは各々の思いを抱き、パンデモニウムを後にした。

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