第10話 ステータス

「はい、ご主人様。どうぞ」

 隣に座っているミレナは、スープをスプーンで掬い口で少し冷ましてタイチの口元へと運ぶ。


「ありがとう。とても美味しいよ。」

 タイチは、そのスープを口の中へと入れ、ミレナに感謝を伝える。


 傍から見ると、いちゃついているカップルの様だがこれには訳があるのだ。


「(やっぱり、『古代魔法』には副作用があったのか......)」

 考えてみれば、とても当たり前の事だった。あんな大技を呪文を唱えただけで発動出来たのだ。デメリットだってあるに決まっている。

 どうやら『殺戮の宴』の副作用は魔法を使った数時間後から、1日手が動かないという事の様だ。


 余談だが、負傷していた腕はミレナが回復魔法によって治してくれたらしい。魔法は起きた時に使えるようになっていたらしい。

これも恐らく、『奴隷王』のスキルによるステータス補正が働いている為だろう。


 そして、もう一つの『大地の檻』の副作用だが......それは、尻尾好きになるというものらしい。

 きっかけは、『ステータス』と呼ばれる物が存在する事を知った事から始まった。


 ☆☆☆


「どうですか?」

 ミレナが不安そうにそう尋ね、近づいてくる。彼女は食事を作るために少し離れた所にいたがその手を止め、倒れ込んでしまった俺を起こしに来てくれた。

 困った事にあの後、立ち上がろうとした時、手が動かない事に気が付いたのだ。


「いや、やっぱり動かないな。別に痺れてたりはしないし...毒とかじゃないといいんだけど。」


「そうですか...『鑑定』の魔法が使えたらいいんですけど......」

ミレナは心配そうにタイチの腕を見ていた。

「鑑定が使えたら、どうなるんだ?」

 タイチは、王宮でも鑑定魔法が有ったのを思い出してそう尋ねた。


「鑑定をすることによって、相手の現在の状態が分かります。それによって毒に掛かっているのかどうかも判断が出来るんです。」


「(そうなのか......ひょっとしたら!!)」

「ステータス!!」

 タイチがそう唱えた途端、頭に文字が浮かび上がってくる。


 ーーーーーーー

【名前】竜崎 太一

【種族】????

【性別】男

【状態】古代魔法の副作用の影響あり

【筋力】A

【防御】B

【魔力】B+

【俊敏】C

【スキル】

『賢者』『古代魔法適正』『奴隷王』

『格闘術Lv.1』『呪術魔法Lv.1』『龍神の加護』

【主従】

『ミレナ』を所有


 ーーーーーーー


「で、出来た!!見えるぞ!俺のステータスが!」


 あの時、様々なスキルが分解され他のスキルに吸収されていた。だからひょっとしたらと思ったのだ。


「え?出来たんですか?」

 ミレナが驚いて、こちらに顔を近づける。


「ああ、ステータスが見えるんだ。」

 そう言って、試しにミレナのステータスを覗いてみる。


 ーーーーーーー


【名前】ミレナ

【種族】龍人

【性別】女

【状態】平常

【筋力】S+

【防御】A

【魔力】S

【俊敏】S

【スキル】

『全魔法適正』『格闘術Lv.5』『剣術Lv.3』

『読解』『算術』『回復魔法Lv.1』『始祖回帰』

『人化』『奴隷王の寵愛』

【主従】

 タイチに隷属


 ーーーーーーー


「(なんだろう......この格差は。)」

 ミレナのステータスと自分のステータスが違いすぎて、呆然としてしまう。


「あの...ご主人様?大丈夫ですか?」

 ミレナは心配そうにそう尋ねる。


「ああ、大丈夫だよ。どうやら、古代魔法の副作用みたいだ。」

 そう言って、タイチは話を誤魔化した。


「そうですか...少し具合が悪そうだったので。それにしても、流石ご主人様です。鑑定魔法なんて、魔法が使える人の中でも本当に1部の人しか使えないんですよ。」

 ミレナは目を輝かせてこちらを見る。


「(そんなに見つめられるとは辛いな......)」

 タイチは話を逸らすためさっき見た中で疑問に思った事を尋ねた。


「ねぇ、この『始祖回帰』って何なの?あと、『人化』も。」


 すると、ミレナはすこし怯えた様子を見せた。

「(まずい、何か悪い事を聞いたか!?)」


 だが、ミレナは話を始めた。

「その、『人化』という能力は今私がしているものです。そのスキルにより私達は人間と全く変わらない姿になるんです。そんなには、変わらないんですけど......。そして、『始祖回帰』というスキル何ですけど...実は私にもよく分からないです。」


 ミレナによると、『始祖回帰』は生まれた時から持っていたスキルで、1度も発動した事がなく、その為どの様なスキルなのかも分からないらしい。


「そっか...じゃあ、人化を解除したらどうなるの?」


「その......龍人の姿になります。」

 ミレナは躊躇いながらそう話した。


タイチは龍人というものに興味が湧いた。

「へぇー。見せてもらってもいい?」

 その瞬間、ミレナの表情が強ばり何かをタイチに訴えようとして......そして、止めた。


「......分かりました。いつかは見せないといけないですもんね......。」


 そう言うと、ミレナはタイチをそっとベットに横にさせた。

そしてタイチの目の前に立つとミレナは服を脱ぎ始めた。彼女の服と肌が擦れて、音を立てる。


「ち、ちょっと!何やってるの!?」

 タイチは状況が上手く理解出来ず、狼狽えた。


「服が破けると困るので......。」

 そう言って、服を脱いだ状態でタイチに体を向ける。


 タイチは動く事が出来ない為、その光景を眺めていることしか出来なかった。

 ミレナの体の隅々が目の中に入り込んでいく。

 そのとても大きな胸は垂れること無くその存在を主張していて、ウエストは痩せすぎず、かと言って太っているわけでもない。そして、足は細長く、綺麗な白色が映り込む。彼女は全体的に色白だった為その光景自体が、あまりに官能的だった。


 思わず、唾を飲み込んだタイチをよそにミレナは手を自身の胸に置いた。

「それでは、いきます......。」

 その瞬間、眩い光が彼女を包み込んだ。


 そして光が収まった時、彼女の姿は変わっていた。

 彼女の背中には白い翼が生えていて、お尻あたりから白く細長い尻尾、頭には小さな角が有った。

 そして、直ぐに体を覆うように毛布を被った。


「(凄い綺麗だ...)」

 その光景はとても綺麗で、あのドラゴンと出会った時と同じ様に感動していた。


「あの、どうですか......」

 ミレナが怯えた様子で両手を広げそう尋ねてくる。その手は僅かに震えていた。


「綺麗だよ。天使みたいだ。」

 実際、白い羽と小さい角が相まって神々しさが増し、天使の様に感じた。


「えっと......汚くは無いですか?」

 ミレナは未だに少し怯えている。どうやら彼女はこの姿を見られる事を怯えている様だ。


「凄く綺麗だよ。どうしてそんなに自分の体を動かす嫌ってるの?」

 彼女は、自分の評価が酷く低いような気がする。


「だって......亜人ですし、それに......私は出来損ないだから...。」

 ミレナは下を向いたままそう答える。


「どうして?」


「私、龍人なのに翼も尻尾も白いんです。だから、小さい頃から他の子からも嫌われていて......」


 どうやら、龍人に白色は珍しいらしく、龍人達からも差別されていた様だ。ミレナは口減らしで奴隷にされてたという、恐らく彼女の差別も関係していたのだろう。


「綺麗だよ。ミレナはとても綺麗だ。だから自分をそんなに卑下しないで。」


「......ご主人様は優しいです。」

 そう言うミレナの顔にもう怯えの色は無い。

 そして、タイチが横になっているベッドのタイチの頭の部分に腰掛けた。


 裸に毛布を掛けたぐらいの格好の女の子が自分の頭の近くに座っているのだ。年頃の男であるタイチが固まってしまうのも無理はないだろう。


 だが......

「(何だ......?ミレナの尻尾が恋しい。)」

 タイチは謎の欲求に支配されてしまっていた。


 ミレナの尻尾がタイチの顔を掠める。

「(あぁ、触りたいな。でも手が動かないしな...)」


 ミレナの尻尾がしきりにタイチの顔を掠める。

「(どうやって、尻尾に触ろう。)」


 ミレナの尻尾がタイチの目の前を通り過ぎる。

「えいっ」

 タイチは、目の前を通り過ぎる尻尾を咥えた。

「〜~~~~~ッ!!!!」


 その瞬間、ミレナは断末魔の様な悲鳴を上げ、跳ね起きた。その顔はすっかり赤くなってしまっている。

「な、ななな何するですか!?」

「いやー。なんか触りたくてしょうがなかったんだよ。」


 不思議と、未だに尻尾に触りたいという欲求は消えていなかった。


「止めてくださいよ!龍人にとって尻尾は敏感な所なんです!」

「後1回だけいい?」

「いいわけないでしょう!?」


 その後、直ぐにミレナは『人化』を行ってしまい、尻尾を触らせてくれなかった。


 ☆☆☆


 スープを飲み終え、タイチは、ミレナに尋ねた。

「ねぇ、もう1回だけ尻尾を出してくれない?」


「絶対!嫌です!」

少しだけミレナとの距離が近づいた気がした。



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