節分の物語「鬼と福笑い」
@evahks
鬼と福笑い
昔々、そのまた昔のお話しです。
地球のあるところで、頭にツノを生やした人達が住んでおりました
その人達は
「けっして争いはしない」と誓い
幸せで豊かな文明を静かに築いておりました
しかし
ある日のことです
どこのものかもわからない人達がやってきて
頭にツノの生えた人達をいじめ始めました
ツノの生えた人達は「争いをしない」と
種族の間で誓った約束を守るため
争いのない地へ身をひそめます
彼らのツノには神経系統が密集しており
今の時代でいうところの
超能力やテレパシーというものを
自由に使える種族でした
超能力を使えば
いじめっこ達をやっつけらるのに
彼らはそれをしませんでした
ツノの生えた人達は
違う種族同志が仲良くできないことが
とても残念で
悲しいと言っていました
しかし
いじめっこ達は
ツノのある人達を追いかけます
自分たちにないツノがあることを羨み妬んでいました
はるかに進んだ科学技術や
文明を彼らから奪いたかったのです
ツノのある人達にも家族がいます
大切な人達を守るため
静かな怒りをたずさえ
家族の命をねらう人達の前に
立ちはだかります
しかし
彼らの勢いを食い止めることができても
人を傷つけることはできませんでした
その代わり
自分が傷つくことに決めました
戦いのたびに
ひとつ、またひとつと
体に傷が増えていきました
山や木々、川や海、鳥や動物達や昆虫が
戦いに巻き込まれ
つぎつぎと
死に絶えていきました
ツノのある人達の心も
戦いのたびに
傷ついていきました
大自然とともに生き
心優しかった彼らの心にも
憎しみや怒りで
我を忘れてしまうほどの
闇がふくらんでいきました
ツノのある人達は
闇にのみこまれまいと
必死で耐えしのび
こらえておりました
「このままでは地球に誰も生きられなくなってしまう・・・」
ツノのある人達のリーダーが
そうつぶやきました
家族
そして大自然の仲間を守るため
ツノある人達に充満してしまった
すべての闇を
彼は一人で
飲み込みました
彼の体は膨れ上がり
「鬼」と呼ばれ
仲間からも
恐れられるように
なってしまいました
鬼は世界を飛びまわり
人の心に住みついてしまった
「闇」を見つけては
自ら飲み込んでまわりました
そして
闇を飲み込んだ代償として
彼らの大切なものを次々と
破壊してまわりました
そして、鬼が本当に守りたかった
みんなの地球も・・・
鬼も
みずから飲み込んだ闇と
戦っていました
誰にも相談できず
ひとりぼっちで
泣きながら戦っていました
鬼は
自分が世界に与える恐怖が
世界を闇に包み
人々や自然を傷つけてしまう
そう思いました
鬼は
21日間
闇と戦いながら
苦悩しました
そして
21日目をむかえた朝
世界を救う方法を
思いつきました
鬼は
自分の命を
消し去ることが
一番良いと
思いました
するとそこへ・・・
穏やかな微笑みをたたえた
柔らかな光を体から発する人が
ひとりで現れました
鬼は
はじめその人を
とても眩しいと
思いました
闇の中で長い間
ひとり
苦しんでいた鬼は
はじめ
その光が
何であるのか
わかりませんでした
ただ
わかっていたことは
目が開けられないほどの
「何か」があること
それだけしか
鬼には
わかりませんでした
その人は
優しく
鬼に
声をかけました
「私が
ここにいます
どうか
安心してください」
「ゆっくりで
大丈夫
少しずつ
目を
開けてみてください
私が
手をつないで
います
大丈夫
少しずつ
あなたの目を
開いてみて
ください」
目を開いた鬼の大きな瞳からは涙が溢れ
空から
たくさんの雨が
降りはじめました
荒れ果てた大地に水滴が染み渡り
大きな川から海まで
悲しい気持ちを
洗い流してくれました
「ほうら
もう大丈夫
おなかすいたでしょう?
これを
食べてください」
微笑みをたたえたその人は
鬼に小さな豆粒を1つ
口もとへ運んであげました
ガリッ!
1つの小さな豆粒に
鬼は一生懸命に食いつきました
すると
膨れ上がった鬼の体が
少し小さくなりました
微笑みをたたえたその人は
優しく
声をかけ続けます
「ごめんなさい
今はこのお豆1粒しか
もっていなくて
どうか
あなたの話しを
聞かせてくれませんか」
すると
鬼の体がまた少し
小さくなりました
微笑みをたたえたその人は
優しく
鬼の手をにぎり
冷たくひえてしまった鬼の体を
抱きしめました
「ごめんね
ずっとひとりで
がんばって
きたんだよね」
微笑みをたたえた
その人の瞳からも
大きな涙が
溢れました
すると鬼は
もとの自分の大きさに
戻りました
鬼は
微笑みをたたえた
その人に伝えました
「ありがとう…」
鬼の瞳から溢れたのは
喜びの小さな涙でした
それからというもの二人は
よく話すようになりました
まるで
お互いの闇を愛するように
鬼は微笑みの人に
一粒の豆を
微笑みの人は
ドロップキックをかましながら
一粒の豆を
鬼の口もとへ
優しく運びました
二人はジャンプしながら
これまであったことを
話し合いました
それはとてもエキサイティングで
お互いの知らないことが
それぞれ経験してこなかったことが
たくさんありました
毎日が発見と喜びの連続でした
喜びと笑いに包まれた日々が
始まりました
ずっと待ち望んでいた世界が
生まれた瞬間でした
それは誰も知らない
地球上ではじめての体験
二人はいつまでも末長く
誰も知らない場所で
ひっそりと
暮らしたのでした
節分の物語「鬼と福笑い」 @evahks
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