死にたがりの道化と笑いたがりのピエロ
幽谷澪埼〔Yukoku Reiki〕
突然始まるキミとの出会い
出会いは唐突、と言うべきか
──死にたいなァ…
ボクは今日もそう思う。何も唐突に考える訳では無い。
それに考え出したのだって、そう近い過去ではないのだ……多分。
今ボクが居るのは小さな街の郊外にある、寂れた廃墟ビル。その屋上だ。
もちろんボク以外にそこに
目の前にあるのは錆に濡れた手すりと柵。その高さは5mくらいか。そう、つまりこの手すりを越えて空に飛んでしまえばボクの身体は空に投げ出され、いとも容易く絶滅出来る、という訳だ。
──そろそろ死ぬ為の予定時間……
ボクの理想は頭から落ちて血が赤い華の如く飛び散り、ボクの身体を彩る死に方だ。だから飛び降り自殺。
──面白いくらい今日は順調だ。ボクとしては嬉しくて仕方がない。
ガシャ…カシャッ……カシャンッ
順調に一歩ずつ障害の壁となる金網を登り、鉄の
さぁ…後は空に向かって飛んでいくだけだ、恐怖も今日まで。止める人も居ない。
「今日のこの場所、この時間、そして──この思いも考えも、全て今だけはボクのモノだ」
そう言って誰もが見惚れるほど美しく優しい微笑を浮かべて、存在を主張する空へとボクは手を広げた。
「さぁ今からそちら側へ行くよ──…」
そしてボクは落ちたはずだった。
なのに落ちていない。これはどういう事だ?
目の前に広がるのは相変わらず蒼くて澄んだ、憎らしいほど望んだ、あの空。そして手足に走る、鈍い重み。
──……状況を鑑みてどうやらまた、正義感を働かせた誰かに助けられたらしい。まったくはた迷惑なことだ。
ボクが好きで死のうとしているのだ、何故邪魔されなければならないのか、全く以て意味不明だ。
「──なんで止めたのかって、顔をしているね? 死にたがりの道化君」
「…………はっ?」
目の前に嘘臭い、そして胡散臭い笑顔を貼り付けた少年が居た。
それがボクとカレ、死にたがりの道化と笑いたがりのピエロの出会いだった──…。
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