8 夏休み
高一の夏休みの始め、友達とショッピングモールへ買物に出かけた。
私の一番のお目当ては、前に下見へ来た時に一目惚れしたヒールサンダルだ。値段はいつも買う靴より一桁も高いし、履いた事のないヒールの高さなので不安ではあるが、赤いエナメル生地で先の尖ったそのサンダルは誰が見ても間違いなく格好良く、絶対に欲しかった。それを履いて夏を遊び倒すのだ。
店を覗くとそのサンダルはまだ売れ残っていた。私は急いで手に取り、試し履きもそこそこにレジで会計を済ませた。親から貰ったお小遣いではなくて、最近始めたバイトで貯めた自分のお金で。それは私にとって初めての経験だ。
早速履いてきた靴と交換し、新しいサンダルに足を通すと、私の為に作られたのではと思う程に似合っていた。自分のお金で高い靴を買う。その行為をした事で自分が大きく成長したようで、とても誇らしかった。
けれど周りを見回すうち、ヒールで突然高くなった視界、といったものにひどく見覚えがある気がして私は首を捻ったが、答えはすぐに出た。
肩車だ。幼い頃、父親の肩に乗って見た世界に似ていると思ったのだ。
それが懐かしく、あの頃に戻りたいなとふと思う。それで私は、まだ大人にはなりきれないな、と密かに苦笑したのだった。
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