事件の始まりは薄紅色2

一時限目の終了のチャイムが鳴り響く。数学の山下先生が授業の終わりを告げる。式部瑠璃しきべるりはフラッと、友人の佐竹由紀さたけゆきの席まで歩いていく。そこでノートに何やら書き留めている由紀の机に腰掛け、そのまま話しかける。

「由香理・・やっぱり来ないね」

クラスメートである本城由香理ほんじょうゆかりの、誰もいない席を見ながらそう話すと、それほど興味がないのか、由紀はそのままノートに書きながら返事をする。

「そうだね。でも風邪か何かじゃないの?」

「今日は放課後に由香理と約束してたんだよね。なのに何の連絡もなく休むなんておかしくない?メールしても返事こないし。やっぱり変だよ。由紀は何か聞いてない?誰か知らないかな・・・」

物書きに集中したい由紀は、一方的に話す瑠璃にちょっとイラついたのか。

式部瑠璃しきべるり!ちょっとうるさい!書き終わるまで待ちなさい!」

由紀に怒られた瑠璃は、しょげ込んで、少しいじける。そんな彼女の前に由香理の親友である、源聖羅みなもとせいらが通りかかった。


「源さん。ちょうどよかった。今日って由香理は、どうして来ていないか知っている?」

そんなに摩訶不思議な質問でもないはずだけど、源聖羅はどうして私に聞くのって感じの冷たい反応。

「知らないわよ。私が聞きたいくらいだよ」

「え・・でも源さんと由香理って親友でしょう?」

これは完全に余計な一言だったのか、私は源聖羅を完全に怒らせることになった。

「どうしてあなたに、私と由香理の関係を決めつけられないといけないわけ?」

源聖羅は早足でそのまま教室を出て行く。

「あーあ、怒らせたわね」

由紀にボソッと言われる。頭を抱え込んでさらに落ち込む。


「私ってどうしてこうなのかしら・・・一言多いよね」

「わかってるんなら治しなさいよ」

「反省はしてるんだよ」

「そうは見えないのよ」

そんなやり取りをしていると、教室にすごい勢いで男子生徒が走り込んで来る。その生徒の一言は、ざわついた教室を静まり返し、凍りつかせるには十分の破壊力があった。


蔵橋から並木警察署までは歩いても1時間くらで行ける。11時まではまだ時間があるので、俺は歩いて向かうことにした。別にタクシー代をケチっているわけじゃない。確かにうちの新聞社は経費が中々落ちにくい体質ではある。タクシーを使うのはリスキーな点も否めない。しかし今回はどうも気分展開の要素が強いかな。


自分が天使だと言っていた少女の話。それはとても信じがたい話だった。だけどすべてを否定できない俺がいる。天使や色云々の話の内容とかは、実は関係なく。彼女の透き通った瞳が、嘘や冗談を言っているよに見えなかった。だからこそ中尾さんの死の色の話は、俺を動揺させていた。


少し歩いてきたことを後悔し始めた頃に、俺は並木警察署に到着した。会見前に、一枚のプリントがメディア関係者に配られ、それに目を通す。


今回の件の概要がそこには書かれていた。


死亡者 本城由香理

年齢  15歳

職業  並木第二中学三年生

死亡理由 溺死


9月27日 午前5時ごろ、ランニング中のOLにより、百合川の蔵橋より100m下流で水死体で発見。


死亡時刻は9月27日の1時から2時の間。

争った形跡はなく。目立った外傷はない。


事件と事故の両方の可能性があり、現在調査中。


争った形跡も、目立った外傷もないのに事件の可能性があると警察は判断している。ここは書いていない何かの要因があるのかな・・

この内容だけ見ると事件性はないように見える。


プリントに目を通していると、警察の担当が出てきて記者たちに話し始めた。


「記者の皆さん。百合川での、女子中学生の水死体発見の件ですが、現在わかっていることはそちらのプリントに書かれています。

質問はございますか」


今回こちらに来ている記者は20社ほどであろうか、今回のような警察発表に、この数は多い方だろう。おそらく発見されたのが中学生ってことで注目しているのだろう。記者の何人かが手を挙げる。そのうちの一人を警察の担当が指を指す。


指をさされた記者はメモとペンを手に持ち、質問を始める。

「西京テレビのニュース99です。事件、事故両方での調査をするようですが、現時点ではどちらの可能性が高いと警察は考えていますか」

「遺体の状況から、事故または自殺の可能性が高いと考えています。しかし状況的に、事件の可能性も十分にあると考えております」

「状況と言いますと?」

「深夜の1時から2時に、中学生が川で溺れ死んだんですよ。普通じゃないでしょう」

「確かに・・」

「他に質問は?」

俺も手を挙げるが、若いから舐められているのか、弱小新聞だからか、指を指されることはなかった。警察の担当は幾つかの質問に答えると、最後に、今回は捜査本部の設置は見送ると告げて、警察発表は終わった。


俺は一度編集部に戻り、今後の方針を考えようと移動しようとした。しかしその時、周りの空気が一変する。ざわめきが起こり。何やら騒がしくなっていく。ざわめきの中心を見ると、そこには新京新聞の中尾さんがうつ伏せに倒れていた。


それを見た瞬間・・天使の彼女のセリフが頭をよぎる。


漆黒の色は死の色・・・あの人もう少しで亡くなります。


「マジかよ・・・・」


俺の体は小刻みに震え始める。何とも言えない感情が心の中を渦巻く。この感情は何だ・・驚き、恐怖、悲しみ・・違うそうじゃない・・俺は・・・興奮しているのかもしれない・・未知の何かに出会った喜び・・それに激しく興奮してるんだ・・・何なんだよ俺は・・そんな自分の感情に気がつくと、激しくそんな自身を嫌悪する。


「救急車を呼べ!早く」

自分のそんな感情をごまかすように俺はそう叫んでいた。

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