在りし日のお茶会
「なーんか、また妙なお茶をつくったのね、ヴィエッダ。……と、言うよりも、それはお茶と呼んでいい代物なのかしら?」
美しい人間の友人は、ヴィエッダが注ぎ分けたお茶を目にするなり形のよい秀眉をひそめた。
嫌そうな顔をしているアジカに対してヴィエッダは「そうかい?」と首を傾げて見せる。
「色が真っ青なのも気になるけど、発光している上に、気泡まで出てるじゃない」
「大丈夫、すぐに治まるよ」
「何が大丈夫なのかよくわからないのだけど」
「ちょうどこの気泡が治まったくらいが飲みごろなんだ」
「あぁ、飲めって言うのね? ヴィエッダは私にこれを飲めっていうのね?」
「飲まないのかい?」
ヴィエッダはまさか断られると塵ほども思っていなさそうな平然とした素振りで、友人に茶を薦める。
アジカは、笑顔を引きつらせた。
その間にも、二人の間に置かれた茶杯の中では、ぷくぷくと気泡を吐きだし続ける茶が色鮮やかに色味を変えだす。青から緑へ、緑から黄色へ。橙、赤、薄紅、紫と回って再び青に戻った茶は、気泡に揺られながらきらびやかに茶杯の縁に光を映す。
目に楽しむ分にはとても美しいそのお茶は、それゆえに、飲むとなれば多大な勇気と気力を必要とするものだった。
「ほら。前にアジカは私のお茶が変わっていておもしろいと言っただろう?」
「言ったわね」
「それに、この間湖に遊びに行った時、湖面の色を次々に変えてみせたら綺麗だと言わなかったかい?」
「……ええ、言ったわね」
「だから、二つをかけあわせて見たんだけど」
気に入ったかい? とヴィエッダは問う。うきうきと無邪気な顔でそう言われると、アジカも押し黙るしかなかった。
彼女らと知り合ってもう四年は経つが、相変わらず
アジカはこめかみを手で押さえながら溜息を吐いた。
「……どうしてそうあなたたちは限度ってものを知らないの」
「うん?」
アジカが見つめている間も、茶はくるくると発光しながら色を変える。
「あぁ、大分気泡が治まってきたね」と嬉々として報告してくるヴィエッダに呆れつつ覚悟を決めたアジカは茶杯を手に取り温かい茶を口に含んだ。
舌先で茶を転がして、アジカはふむと顎先に手をかける。
「このままだとちょっと薬草っぽいかもね。何か……そうねぇ、さっぱりする系の果物を加えた方が飲みやすくていいんじゃないかしら? 私はこのままでも割とおいしいと思うけど、割合くせがあるから好き嫌いは出るでしょうね」
「なるほど。なら、さっそく試してみようか」
確かイジナムの干果ならまだあったはず、と言い置いて、ヴィエッダはそそくさと席を立つ。
奥へ消えたヴィエッダを見送ってから、アジカは色を変え続ける茶を飲みつつ、茶と共に大量に出された茶菓子の一つに手を伸ばした。
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