やまぬあめ 闇の人狼
雪城藍良
第1話 落ちた先には
灰色の綿に包まれた空。降ってくる雨は舗装されていないやわらかい地面をぬかるみへとかえていた。これはまずい。レーヒェは面倒くさそうに溜息をついた。
ただでさえ人があんまり踏み入らない山だからって半ば強引に、半ばやけになって入ったのがまずかったか……。
ふくらはぎの真ん中までのびるまっすぐな黒髪と黒い瞳、反対に肌は陶器のように滑らかで白い。基本表情が無いあたり『お人形さん』の一言で片づけられる美貌を持つレーヒェという少女。宮廷魔術師の職を持ちつつ現在各地を放浪――出張中である。
木陰に入ってさしていた傘を軽く振った。バサバサ開くのが面倒だから持ち手の近くに留め具をつけてもらったけど、なかなか便利なようだった。
曰く、異世界の傘に似せたらしい。
注文を付けて半日もたたずに自分が見たこともない仕掛けを作れる凄腕を持つ“
亜人種自体もう滅ぶ寸前だから、尚更。魔人属、獣人属、龍属。獣人属狼種は絶滅寸前。龍属は個体数が少ないが、圧倒的な力を誇る。人間と魔人属が一番数で言えば多いい。もっとも、魔人属の亜種として魔獣が含まれ、魔女も含まれるため、大分事情が違うが。
コートについたフードを深くかぶり、走り出す。あまり長居すると土砂崩れを起こされて困るし、人の手があまり入っていそうもないから心配するほどでもないかなぁなんてのんきなことも考えていたりもした。
だからと言って足元の注意を怠っていた言い訳にはならないけれど。
ずるりとぬかるんだ土に見事に足を滑らせたことを瞬時に理解する。した。――瞬間、あ、落ちた。と思った。
内臓が持ち上がるような嫌な感覚とともに天地がひっくり返る。いや、実際ひっくりかえっているのは私自身だが。ぐるぐると回る視界で落ち着いた対応ができるはずもなく、とりあえずつかんだのは木の細い、細い根っこ。
そのうちつかみ取ったぬれた根からは滑り落ちた。が、なんてことはなかった。案外地面は近かった。
「…………」
ふと気が付く。何かがおかしい気がする。いや、山道から滑り落ちて運よく崖から突き出ていたそれなりに大きい岩に落ちたもののその先は断崖絶壁。その下は森。地面は見えない。三階建ての建物を五、六個積んでもまだまだ足りなさそうな高さに気が遠くなる。後ろは土。登れそうにもないという状況からしておかしいが、少し違う。くいっ、と軽く左足を動かしてみる。うん、足首を捻挫したみたいだ。さて、これからどうしたものか。
治癒するのに魔力残量が圧倒的に足りない。
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