第47話《呪い》-其ノ参-
あたしの名前は小島ハツナ。
刑部マチコと名乗る謎の美女が運転する車に乗せられた高校一年生だ。
車が走ってからどれくらい経っただろうか。
隣町を抜け。
国道に入り。
そして高速道路に入った。
一体、どこに向かっているのか。
マチコは教えてくれない。
「マチコさん」
あたしはマチコに声をかけた。
返事はない。
相変わらずマチコは黙って運転している。
車内が重苦しい空気が漂う。
♪
スマホに着信が入った。
かけてきたのは、お母さんだった。
「もしもし? あんた今どこにいるの?」
車内のデジタル時計を見ると、夜の七時前になっている。
今日は部活を休んでまっすぐ帰る。そうお母さんに伝えていたことをあたしはすっかり忘れていた。
「ごめん。もう少し遅くなる」
「遅くなるっていつよ」
容赦なくお母さんがあたしを問い詰める。
そんなこといわれたって。
ちらっと運転席のマチコに目を向けた。
見ると、マチコがスマホをよこせと手で合図している。
あたしはスマホをマチコに手渡した。
マチコはスマホを受け取ると、肩と首にあたしのスマホを挟んで軽く咳払いした。
「もしもし小島さん? 担任のヤスダです」
あたしは息を飲んだ。
そっくりだ。
ヤスダ先生の声にめちゃくちゃ似ている。
「ええ、そうなんですよ。ハツナさんの補習授業で。ええ。そうです」
しばらくマチコはヤスダ先生の声でお母さんとしばらく会話した後、「それでは失礼します」と伝え、スマホの通話を切った。
「ハツナをよろしくお願いします。だそうよ。あなた、相当心配かけてるみたいね」
「マチコさん。あなたは一体?」
「ハツナ。八百万の神様ってわかるかしら?」
あたしの質問に答えず、マチコは逆に訊いてきた。
八百万って……たしか日本神話とかそういうあれで、日本には数え切れない神様がいるとかそういう奴だっけ?
「そうね。だいたいそれで合ってるわ」
「あの、それがどうしたんですか?」
マチコは肩をすくめる。
「一ヶ月前、【蛆神様】について、とある人から依頼があったの」
「依頼?」
「ええ。うちの町に【蛆神様】というおかしな神様が棲んでいます。その神様がいつから棲んでいて、どこからやってきたのか、『ルーツ』を調べてほしい。そう私に依頼してきたの」
フロントガラスに雨粒が当たった。
マチコはワイパーのスイッチをつける。
雨粒の数が増えた。
「私は依頼人と会う約束をしたの。依頼内容について話を聞く必要があったからね。だけど、私は依頼人に会うことができなかったわ」
「どうしてですか?」
「殺されたからよ」
雷が鳴った。
雨粒はますます大きくなり、風が吹いてきた。
「今夜は長くなるわよ」
そうマチコはつぶやいた。
車は高速を降りた。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます