第35話《歯磨き》
あたしの名前は小島ハツナ。
小学生サッカークラブの練習合宿に同行することになった高校一年生だ。
「すまんね。付き合ってくれて」
夜。
合宿所で三浦先輩があたしにいった。
三浦先輩は地元の小学生サッカークラブの元OBで、たまに練習に付き合ったり合宿で面倒を見ることがあるそうだ。
今年はメンバーが多いらしく、あたしとトモミに合宿の手伝いはしてほしいとお願いされて、今に至っている。
「いえ。お役に立てて嬉しいです」
正直、疲れた。
炎天下の中、小学生たちの練習に付き合ってバテバテだ。
トモミも同じく疲れたみたいで、口数がいつもより減っている。
「明日もあるし、二人とも先に休んでていいよ」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
あたしとトモミは三浦先輩に会釈し、部屋に戻ろうとした。
「寝る前にちゃんと歯磨きなよ」
三浦先輩が冗談っぽくいった。
あたしは「もちろんすよ!」と笑顔で返した。
合宿も後一日。
気を引き締めていかなくちゃ。
「三浦コーチ……」
小学生一年生ぐらいの男の子が、半べそをかきながら三浦先輩の元に歩み寄ってきた。
「どうしたの?」
「僕……歯磨きしたくなくて……【蛆神様】にお願いしたの……」
「え?」
「《歯磨きをしたくない》ってお願いしたの……そしたら……」
男の子が口を開く。
口の中に糸が引いていた。
歯が溶けている。
まるでガムかチョコレートのように、歯が柔らかくなって伸びていた。
「ひゃみぃひゃひひひゃひひひいひひひひーひひ」
もごもごと男の子が三浦先輩に何かをいった。
三浦先輩は男の子の頭を撫でると、男の子の手を繋いで宿舎に戻った。
「歯磨いて寝ようか」
ぼそっとトモミがつぶやいた。
そうだね。
あたしは心の中で頷いた。
終
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