第17話《遊技機》


 あたしの名前は小島ハツナ。

 子供の頃、従兄弟の男の子が遊ぶテレビゲームを後ろから眺めて鑑賞するのが結構好きだったけど、今ではゲームに一切興味を持っていない高校一年生だ。

 学校の帰り道。

 お母さんからお願いされた品物を手に提げて商店街のアーケードを歩いていると、ふと子供の声が聞こえてきた。

 声のする方向に振り向くと、駄菓子屋の前に小学生ぐらいの男の子四、五人が集まって戯れている様子があった。

 駄菓子屋の前には、縦に長い四角い箱が置かれていた。色褪せたゲームキャラが箱の側面にプリントされている。

 昔のゲームセンターにあったアーケードゲームの筐体だろうか。

 子供たちは、野次や歓声を飛ばしながら、その筐体のモニターを覗いてはしゃいでいる。


「いけ! そこだ! そこ!」


「殺せ殺せ!」


 チップチューンのBGMに混じって、爆発やビームの効果音が流れる。

 打撃音や破砕音も合わせて聞こえた。

 格闘ゲームかな。

 うちの従兄弟もそうだったけど、男の子ってやたら暴力的なゲームに熱中する傾向があったりする。人好き好きだから批判はしないけど、個人的にはあまりいいとも思わないし興味もそれほど湧かない。

 帰ろう。

 お腹も減ってきたし。

 あたしは駄菓子屋を通り過ぎようとした。


「あー、死んだじゃねーか」


「しゃーないなぁ。新しいのダイキだな」


 子供たちの視線が後ろに回った。

 群れの中で、比較的大人しい雰囲気のあった男の子が、びくりと身体を震わせた。


「い、いやだ。ゲームに入りたくない」


「蛆神様にお願いしただろ? 《このゲームただでできますよーに》って。誰かがプレーヤーじゃないと遊べねーんだよ」


「心配すんなよ! 全クリしたら帰れるからよー」


「おら! さっさと入れよ!」


 ダイキと呼ばれた男の子を、子供たちは羽交い締めにして、筐体モニターに無理やり押しつけた。

 ずぶずぶ。と、音が立つ。

 筐体モニターにダイキの体が泥沼のように埋もれていく。

 ぴろろーん。筐体から元気の出る効果音が発せられると、先ほどと同じBGMが流れはじめる。


「おら!おら! ダイキ行け!」


「殺せ! 殺せ!」


 爆発音が聞こえた。

 萎んだ効果音が流れ、筐体から別のBGMに切り替わる。


「ダイキよぇー」


「もうこれ詰みゲーじゃね?」


「明日どうする? 四年生でも誘ってみる?」


「飽きたからしばらくいーや」


 子供たちが筐体から離れていった。

 BGMが流れ続ける筐体。

 あたしはモニターをそっと覗いた。


 DAIKI DEAD


 ドットで書かれたアルファベットのテキストの下に、ばらばらに体を切り離された男の子の死体が山積みにされている映像が表示されている。


「痛いよぉ」


 BGMの奥から声が聞こえた。

 筐体の足元に、黄色いポスターが貼られているのに気づいた。


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 ※注意※

 この近辺での願いごとはご遠慮お願いします。

 願いごとによる事故等につきましては一切責任を負いません。

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 毛むくじゃらの不気味な丸記号。

 あたしはそれをじっと睨んだ。


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