言葉



時間とともに、視界を埋めていくそれ。

さっきまで見えていた向こう側が見えなくなる。

私は、それが嬉しくも、悲しくもある。

私たちを隔てる壁が分厚くなってしまうようで、私はあまり好きではない。いつからか、壁の向こうは「私」を見なくなってしまった。

そう感じているのは、私だけかもしれない。彼らは、「私」を通した「彼」を見ている。彼のために私を見る。私をきっかけに、彼を知る。

それは、「私」という個が存在するためには、「彼」が必要だから。いつからか、それが、私を取り巻く常識になった。皆が、もろ手を挙げて私を形作った時代は、遠く過ぎ去ってしまった。もう、何年経ったのか。まだまだ若い私だけれど、彼らと歩んだ道は大切なものだった。

 今は、私だけじゃない。一緒にステージに立てる後輩も、先輩もいる。そう。ステージに立つその瞬間だけは、私と彼らを隔てる壁が薄くなる。真っ白い、壁は無くなって、代わりに無数の明かりが見える。声をかければ、声が返ってくる。それは、どこか懐かしく感じられて。私は、今ここから見ている景色に、不満があるわけじゃない。むしろ、それが、時代の流れなんだと思う。だけれど、だけれども、少しは、ほんの少しだけは、「私」のそして「あなた」のハジメテノオトを思い出してくれたら嬉しいな。

 大好きな髪飾りも、懐かしい雪の日も、隣国の王女も、終わらない1日も、お兄様と過ごしたあの日々も、あなたが教えてくれた歌も今もまだ覚えてる。あなたがこの名前を呼んでくれる限り、私はいつまでも歌い続けていられる。もし、それが理想を映しただけの鏡だったとしても、何のために歌うのかわからなくなったとしても、私はここで歌に火を灯し続ける。

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