第44話つけまつけんサンバー

「すごーい!オスの三毛猫、見てみたい!」


みたび、そう言い吐いた女の深理がどこにあるのか読み解くために、

顔を新近距離まで寄せて、瞳の奥を覗き込んだが、やはりカラコンが邪魔をして、無理だ。

話題転換。


「ツケマとかはしないんだね?!」


「ツケマー?しないねー。なんで?」


「ツケマ、苦手だから、してなくてよかったなー、とおもって。」


適当に受け流す。

先刻放たれた「見てみたい!」が、単純に、オスの三毛猫という、世にも珍しいらしい動物への好奇心なのか、

あるいは、それをふくめて、わたしのプライベートに立ち入ることに、全くもって抵抗がないことの証なのか

測りかねる。

そんな心中を悟られぬよう、慎重に、


「瞬きすると、ぶわ~~って、風くると、こっちの瞳も乾いてしまうから。

ぼく、こうみえてドライアイなんだ。」


わけのわからぬ返答でお茶を濁しつつ、誤魔化すために、唇を深く重ねると、

一寸、あかりの方から顔を離して、今度は反対に、わたしの瞳を覗き込んできやがり、


「ふーん、お兄さん、やっぱり変わってる。瞳茶色いねー?」


「変わってなんかいないさ、生粋の日本人アルよ?」

ぷぷっと、吹き出しそうになるあかりのリアクション。

わたしから発せられる言葉のすべてが、面白い言葉に聞こえるようだ。

悪くない傾向。


「お兄さん、おもしろいわーー。でもきっと、さぞかしおモテになるんでしょうね?」


「何を根拠に?」


「そんな顔しているもん。」


「こんなシケメンがモテるかよ。」

冷たく吐き捨てる。


モテたい、めちゃくちゃにモテたい、それは男として生を受けたからには、根源的命題のひとつであることは

否定のしようもない。

そして、モテすぎるがゆえの修羅場とやらで、包丁の類の凶器が持ち出され、

血混じったり、骨の一本や二本が折れるほどの、痴話喧嘩、

そういった展開に憧れるところはあるが、実際問題において、そのような経験は微塵も無い、

もうすぐこの世に生を受けてから、40年近くが経とうというのに、何たるザマよ!

人生にモテ期というものが、数回存在するというのは、やはり都市伝説なんでしょうなぁ。


「ううん、だって優しいもん、お兄さん。」


完全にこの、今しがたお初にお目にかかったあかりという女のなかでの、わたし像は、

歪曲され、ねじ曲がっているらしい。

でもこれは、過去数例しかないのがとても悲しいことなのではあるが、

今後の展開が楽しみでしかないという、いわばハマったときの展開の予感を禁じ得ない。

予感というよりも、確証といってもいいかもしれない、そんなゴールデンルートへ誘われる感覚をおぼえながらも

どこか、俯瞰して見なければいけないような気もする。

双方の考えが倒錯し、最早どっちでも良い気もしてくる。

ここは、わたしがどれほどの外道なのかを知らしめたあとで、あかりの反応を見たうえ

判断しても良いだろう。

今日はここまで。


連絡先やメッセージアプリを交換したりして、主客の関係から飛び出すことは、すくなくとも

今日は実行しないと決めた。

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