第45話AB型の少年

思わせぶりに 口びるぬらし

きっかけぐらいは こっちでつくってあげる


口笛でそう、唄ったつもり。

背中越しに、

「すごーい、お兄さん、口笛うまいねー。」

風呂あがりの拭き合いっこは終盤に差し掛かり、あとはわたしの背中を残すのみ。

一寸口笛は中断して、

「というよりも、だれの歌かはしらないんじゃない?」


「しってるよー、ママがよく聞いてたから。」


「ママが・・・ね・・・」

あかりのほうへ向き直り、バスタオルを適当に放る。

「お兄さん、何歳なのよ?」


「いくつに見えるかの?」

別に何歳に見られようとも、最早どうでもよかったが、

「ぎりぎり、明菜ちゃん世代ではないな、でも片足は40に突っ込んどる。」

言って、左脚を残念そうな表情をつくって指さす芝居。


「えー、すごーい、見えないーーー28くらいかとおもってた。」

真顔で言いやがる。

これが芝居なら、なかなかの演技上手ではないか。


「へっ、これが上手いじゃねーか。」

右手で口の前に、口の形をかたどるポーズ。


「ほんとだよー。ねーねー、お兄さん、わたしはいくつに見えるの?」

身長差がある分、上目遣いでわたしの目というより、鼻の下あたりに目線を感じる。

大丈夫、鼻毛は入念にサウナのほうで処理してきたから。


「29・・・?だったよね?たしか・・・でも・・・」

下からの熱心な視線が耐え切れなくなり、床に放り投げていた、トランクスに手を伸ばし

拾い上げて履きながら、

「変な意味では決してないから、誤解しないでほしいんだけれど・・・」

あかりのほうも、パンツをたくし上げて履こうとしている。

あまり恥ずかしいとか、そういう感覚は無いらしい。

「うん、なになに、教えてーーー?」

「ほら、店のホームページにあったプロフィールは、29とかいてたけど・・・

ブログにあった、口元だけのアップの写真を見たとき、どうしてもこの子とやりたいっておもって・・・

何度か、オナニーした。」

キャッと一瞬、悲鳴のようなものをあげて、パンツ一丁のまま両手で顔を覆ってしまった。

日本の女性は、銭湯などの公衆浴場でつまり自分の裸体を公衆の面前にさらす場合、

胸を両手で覆い隠すことが多いそうだ。

ところが、欧米やその他の海外の地域では、胸を隠すのはかなりレアで、

アンダーのほうを隠すのが主流らしい。

このあかりはどちらにも当てはまらないわけだが。


「もー、お兄さん、本当なの?それーーー」

未だ、両手で顔を覆ったままだが、もしかしたら指の隙間からこちらの動向を見ている恐れもある。

正面から歩み寄ってハグをして、あかりの頭のうえに、あごをおいてみた。

「ん?オナニー?本当だよ。あっ、でも本当はもう1回多かったかも。

それでね、あの写真の感じだと、もうっちょっと大人の女性なのかな、という感じがした。

いい意味でね?」

ようやく顔から手を放して、ふたたびわたしのあごの下から、表情を見ようとしてくる。

この体勢恥ずかしいから、と断ろうとした瞬間、わたしの首ねっこを抱きかかるようにして、

ぴょんっとつま先だちになって、

「お兄さん、好きかも。」

言いながらキスまでしてくれる。

唾液の交換を楽しんだあと、顔を少しだけ放してから、両手であかりの頭を優しく撫でつけてやると

閃いた。

「そうだ!この分け目!!」

「分け目?」

小首をかしげながら、あかりの視線はわたしの瞳に注がれる。

「そう、ネットで見たまんまのやつ。」

いわゆる素人専門を売りにするスタイルであるため、顔はぼかしのかかったものしか

ホームページにも載っていないし、ブログのほうにも顔がはっきりとわかるものは掲載されていなかったから、

事前に確認できるものは髪の分け目くらいしかなかったのだ。

「これが神の分け目だ、美人だ。」

「ほんとにー?そんなこと言われ慣れないから、変な・・・・」

言い終えるのを待たず、頭を抱き寄せて、みたび唾液の交換作業。

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