Golden Diamond
アスターティ…何て忌々しい!
ぽっと出のクセに。どこぞやの馬の骨とも知れない小娘。ちょっとキレイで、自作自演で歌えるなんて。
あたしも「一応」自作自演の「歌姫」だ。ちょっと前までは、若い子たちからカリスマ的な支持を集めていた。
だけど、あたしは「
ロクサーヌ・ゴールド・ダイアモンドというゴージャスな芸名は本名じゃない。
この美貌だって作りもの。自作という事になっている歌詞だって、ゴーストライターに書かせている。
出自不明のカリスマモデル改め、売れっ子シンガー兼女優。ミステリアスな「ディーヴァ」ロクシー。
誰もがうらやむセレブ、あたしはあらゆるメディアに君臨する「偶像」だ。
しかし、あたしはあの女を目にして、改めて自分が「偽物」であるのを思い知らされた。
生まれついてのキレイなプラチナブロンドの髪と空色の目。身長168cmに股下90cmの美脚。ロックバンドで使う楽器はたいてい演奏出来て、キレイな声で歌唱力が高く、自作の楽曲の出来が良い。おまけに、売れっ子作家のフォースタス・チャオと婚約して同棲中の上に、アヴァロン大学文学部に在席する現役大学生ミュージシャンだ。
あたしが本来持っていないものを、あの女は持っている。
幸い、あたしは元々背が高く脚が長いので、「加工」にはそんなに手間がかからなかった。脂肪吸引で余計な贅肉を捨て、胸とお尻をグラマラスに形作り、ブルネットの髪を抜いてブロンドの髪に植え替え、黒い目を青い虹彩の人工眼球に取り替えた。マフィアの連中が経営する売春宿にいるバールの娼婦たちを作るようなものよ。
それに比べて、アスターティ。あの女は生まれついての美人だ。見ただけで「本物」だと分かった。だからこそ、あたしはあの女が許せなかったのよ。
今のあたしは、あのカルト集団を後ろ盾にしている。あんな連中に取り入らなければ、この業界にはいられない。あたしも落ちぶれたものよ。クスリに頼らなきゃやってらんない。
あたしは裏社会の連中にアスターティを襲わせようと企んだ事がある。だけど、アスターティは色々な連中に守られている。あいつの所属事務所は邯鄲ホールディングス傘下の会社だし、あの女のマネージャーのババァはかなりの切れ者だ。
〈ジ・オ〉の連中は、建国記念コンサートで爆破テロを仕掛けるつもりらしいけど、あたしの後にあの女が出番だから、あの女が巻き込まれちゃえばいいのよ。
いや、あいつらはあたしも巻き込むかもしれない。だったら、一体何のためにあたしはあの幹部連中の相手をしたのよ!?
あたしが何度か寝た事がある州知事の男。あいつは古典的な男らしさを自慢するホモフォビアの男。正妻に七人も子供を生ませた元辣腕弁護士だけど、あたしの他にも何人も女がいる。あいつは〈ジ・オ〉を後ろ盾に成り上がった。負け組の「プアホワイト」たちがあいつを支持したのよ。
あたしの実家も、そんな貧乏白人の一家だった。そして、あのロクデナシ親父はブスだったあたしをオモチャにした。
親父や兄貴だけじゃない。学校のバカ男子どももあたしをさんざん辱めた。
それでもあたしは、「男」がほしかった。
「店」にいた時にはレズビアンの金持ちババァを相手にする事もあったけど、あたしはやっぱり男を相手にする方が良かった。
「ねぇ、ゴールド。まだ寝ないの?」
「うん、もうすぐ寝るわ」
黒人の女の子があたしを呼ぶ。あたしの分身、ロクサーヌ・シルヴァー・ダイアモンド。あたしの「歌声」。彼女が舞台裏で歌うのに合わせて、あたしは口パクをする。あたしが唯一信頼している同性。
この娘もあたしと似たような境遇で育ったけど、あたしと違って無垢だ。あたしが偽物の「ゴールド」なら、この娘は本物の「シルヴァー」だ。
彼女は表向きはあたしの付き人だけど、実際には彼女こそが真の「歌姫ロクサーヌ・ゴールド・ダイアモンド」だ。
「おやすみ、シルヴァー」
あたしはベッドに潜り込んだ。
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