夜の神様【中国】

 大学生のBさんからこんな話を聞いた。

 まだBさんが幼かった頃、中国東部にある島でおじいさんと二人暮らしをしていた。

 都会で働く両親が田舎に住む祖父母に子供を預けるというのは中国ではよくある話で、Bさんが当時住んでいたその島もかなりの田舎だった。


 退屈な生活を送っていたBさんだが、一度だけ、島にひとつしかないデパートに連れて行ってもらったことがあるという。


「おやつっていうと果物を干したものとかヒマワリの種とか、そんなのしかなかったんですけど、デパートには珍しいお菓子がたくさんあったんですよ」

 当時人気だったアニメのキャラクターが描かれたチョコレートを買ってもらい家まで戻ってくると、窓の奥、家の中に動く人影を見つけた。


「ねぇ、誰かいるよ」


 と指をさしておじいさんに教えるが、どうやら見えていないようだ。怪訝そうな顔のおじいさんについて家に入る。

 誰もいないじゃないか、そう言っておじいさんが電気をつけた。家の中には誰もいない。人がいた気配すらなかった。


 その夜、夕食を食べている最中にBさんは突然高熱が出て倒れてしまった。


「普通子供が熱出したら医者とか薬とかですよね。でも、おじいちゃん変なこと聞いてきたんです」


 ――さっきBが見た人はどんな服を着てた?


 Bさんの答えを聞いたおじいさんはすぐに何かの枝を持って来て、バシバシと振りながら家中を歩き回った。

「おじいちゃん何やってるんだろうって思ってたら、いつの間にか朝になってて、熱も下がってました」

 後になり、その夜見たのは島に古くからいる神様だと教えられた。

 神様は色鮮やかな服を着ていて、時折夜中にやって来る。神様が来ると柳の枝を振ってお祈りをするのがしきたりなのだそうだ。

 見ただけで熱が出るなんて怖い神様ですね、と言うと、Bさんは首を振った。

「はっきりと神様の姿を見たわけじゃないけど、何となく子供のような気がするんです。だって、」


 ご飯の後に食べるつもりだったチョコレートがなくなってたんですよ、ちょっと可愛いでしょ。


 Bさんが島を離れて二十年近く経つが、暗闇に光る鮮やかな神様の服は今でもよく覚えているという。

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