十六 とある愛国者

 大企業の役員だという彼とは東南アジアの某国で出会った。雑居ビル1階のアイリッシュパブで、スツールをひとつ空けてカウンター席に座っていた。


 元々その国の駐在員だった彼は日本に家族を残しての単身赴任、会社から与えられた3LDKのマンションで一人自由気ままな生活を送っていた。

 週末はいつも近隣諸国へと遊びに出かけていたそうだ。年齢の割にアクティブだ。素直に感想を口に出すと、彼は首を振った。


「お嬢さんが想像してる遊びとは違うと思う」


 彼の言う”遊び”とは、売春宿での遊びのこと。

 要はセックスをするために毎週末遠路出かけていたというのだ。

 それから彼は半時間ほどかけて、いかに東南アジアの十代女子が従順か、いかにNS――ノースキン、つまり避妊具なしでのセックスという意味らしい――が素晴らしいかを語った。


 そんなに好きなら日本に帰らずにずっとここに駐在していればよかったのに、皮肉交じりにそう言うと彼は小さな声で帰国の理由を教えてくれた。

「健康診断でいっこ引っかかっちゃってさ。ビザがおりなかったんだよね」

 ある感染症の検査結果が陽性だったそうだ。


「絶対にどこかの売春宿でもらったはずなんだよね、だから悔しいじゃん?お返ししないと」

 日本に戻った後も暇を見つけては色々な国へ旅行している理由、それは売春宿でNSプレイをして、お返ししておあいこにするためだという。


「こう見えて僕は愛国心が強いの、日本人相手にはちゃんとゴム使うから安心して」



 彼に奢ってもらったフローズンダイキリはすでにぬるく溶け切っていた。お返しはコロナビール二本で十分だっただろうか、今でも時々思い出す。

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